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2. 気だるげなアリサ
BGM 降らないように/音音-Tone
アリサは住宅街を抜け
駅に近いタワーマンションに
向かう
「今日は2件か」
自分に言い聞かせる
ようにつぶやく
ベビーシッターの仕事は
好きだった
拘束時間の割に
合わない配信報酬では
とても生活はできない
ベビーシッターは
生きていく為に
必要な仕事でもあった
彼女は配信でダイレクトな
リアクションを受け
歌の力を確信し
歌で身を立てると
自分に誓った
今までも真剣に
歌と向かい合っていた
それでも
路上ライブで立ち止まる人より
その後ろを通り過ぎる人たちに
怯え一度マイクを置いた
子供達へ歌う日常
さっきまで暴れていた
子が吸い込まれるように
アリサの前に座る
泣き止まない子が
寝息をたてる
微かな歌の効力に
ずっとずっと
歌が好きだった事を
思い出した
そんな時に
ばったり再開した
路上演奏仲間のケイト
カフェで向かい合わせ
ウィンドウには
幾筋も雨が
流れ落ちていく
「ねぇアリサちゃん
電脳世界でライブ
してみない」
ケイトは
そう言って笑った
『何言ってるのかしら
美人なのに八重歯が
あるなんてズルイ』
その時のアリサは
そう思っただけだった
仕事、配信、練習
作詞、作曲、SNS
削られていく時間
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