漆黒と紫 ~小説家と少年による前日譚~

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 今朝ポストに入っていた手紙を、その場で読み終える。  花蔵は失望などしなかった。  だが飛んでいった蝶は、きらびやかで、この上なく貴重なもので。 「……全く、本当にお前は想像以上だよ、鏡」  花蔵は特定の相手を持たず、浮名を流してばかりいた。今回は本気になってもよかったのだと、思ってはいた。 「俺にふさわしいやつ、ね。一丁前に言いやがって」  便箋を丁寧に封筒収めて、花蔵は家に戻る。  いい大人がフラれたくらいで落ち込んでなどいられない。花蔵にはやるべきことがある。  書斎に入り、パソコンのある仕事机に着く。 「さて、仕事だ仕事」  愛おしくも妖しい、空想の海が彼を待っている。  繋がりそのものが、失われた訳ではない。  書くことによって、鏡に届けばいい。そんな気がした。  End
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