scene2. 初恋の人

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 周にとっても興味のある話だったわけか、かなりの乗り気で尽力してくれたようだ。すぐにも彼女を見つけ出したわけなのだが、それが何とも不思議な縁というべきか、鐘崎の父親が経営する社に勤めていることが分かって驚かされた。これはもう天が導く縁以外の何ものでもないと感じた鐘崎は、父に無理を言って日本支社に転勤願いを出した――と、こういうわけだった。  ところがだ。鐘崎にとっては最後の難関というべきか――なんと周は捜し出した女の名前はおろか、社内のどこの部署に勤務しているのかなど、何一つ詳細を教えてくれなかったのだ。ただ、日本支社にいることだけは確かなので、あとはお前自身で捜し出せと言って笑うだけだった。  日本にあるのは東京支社と横浜支社の二箇所だけだ。鐘崎は先ず横浜の支社に転勤し、一年を過ごした。だがどうやら巡り会えなかったようで、この春から東京支社に移ることにしたわけだった。業務内容は台湾にいた頃と変わらぬ企画部に籍を置いたわけだが、鐘崎が社長の御曹司であるというのは社員たちには秘密にしていた。理由は、社長の息子などと知れたら色眼鏡で見られること必須だろうし、何より初恋の彼女に会えた際に身分や立場など関係なく、人と人として向き合いたいと思ったからだった。
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