用心棒

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用心棒

 ラーメン、唐揚げ、ハンバーガー、カレーライス、牛丼、たこ焼き、餃子、チャーハン、ポテトサラダ。これなんだと思う?その日のアタシの夕飯。母胎院の食堂で食べたの。全部一回の食事だよ。糖質ぱねぇ、けどいっぱい食べちゃう。アタシたち除惨士は可愛さとスタイルの良さと食欲が普通の女の子よりマシマシだからさ。 「ああ、食った。めっちゃ食ったわ」 自分のベッドで寝転がりながら、ぽっこり出っ張ったお腹をさすった。妊婦さんか!ってくらい膨らんでる。6ヵ月って感じ。 「コリャもうすぐ生理だな…」 ホント生理前の食欲はどう頑張っても抑えられない。普段からいっぱい食べるんだけどね。まぁさっき宝石技使っちゃったしね。アレ使うと生理くるのが早まるんだ。 今回は一週間くらいで済んでくれるといいんだけどな、アレ生理用品買ってあるよな?なんて考えてたら。 “コンコン” 飛び起きて部屋のドアを開けた。 「藍那!」 「お姉ちゃん…」 上目使いの妹。怒りとか悲しみとかそういうものは出てこなかった。 「今までどこに…?!」 「ごめんなさい」 特に変わった様子はなかった。あ、でも髪色は変えてたな。普通の茶髪から、ピンクのグラデーションになってた。 「まぁ、いいや。入って」 冷蔵庫からジュースのペットボトル二本取り出す。座椅子に座った妹に一本渡してアタシはベッドに腰かけた。 「お姉ちゃんごめんね。連絡もしないで…」 「それはもういいよ。アタシも言い過ぎたし。ゴメン」 藍那はアタシに比べれば全然勉強出来るタイプなんだけど、体力がイマイチ。六段になってからずっと伸び悩んでる。一生懸命励ましたりしたんだけどダメ。藍那はずっとそれを思い詰めてたみたい。なのにアタシが「サボってる」なんて無神経に言っちゃったんだ。コイツだって頑張ってたのにね。 「あれからどこ行ってたの?」 「先輩の…トコ」 「先輩?」 藍那が仲良くしてる先輩の話なんて聞いたことない。フーンって感じで顔を見つめてたらニヤニヤしやがった。ペットボトルを持ってる手をよく見たらネイルも前のと違ってる。あ!まさか…って思ってたら、テーブルに置いた藍那のスマホがメッセージの着信で点灯した。結構体格良くて黒いTシャツ着たオトコとツーショットの画像。 「お前!オトコできたの?!」 藍那がサッと自分の胸元に画面を隠したから詳しくは見れなかったけど。 「えへへ…。まぁね」 「まぁね、じゃねぇよ」 コイツまでオトコ作りやがって。若干のイライラを込めてペットボトルの蓋開けた。 「どんなヒトなの?」 「いいヒトだよ。見た目イカツイけど、優しいんだ。めっちゃお姫様扱いしてくれる」 瞳にハートマーク浮かべてそのオトコの胸に抱きついてる様が目に浮かんだ。ムカつくからもうそれ以上聞かない事にした。長々と惚気話されるのウザいし。まぁ、もう落ち込んでる感じではなかったし、今まで通りここで過ごすって約束させたから良しとした。 「“ココ”の事言うなよ」 「もちろん、もちろん。わかってる」 その後あれこれ聞き出したけど結局惚気話になるだけだった。正直悔しいし、羨ましい。アタシも彼氏欲しいわ。お姫様扱いしてくれるヒトがね。好きなタイプ?アタシ見た目こだわらないんだ。面白くて、背が高ければいいかな、うん。 …うん。  次の日、香織さんに医療区画に呼び出された。あのさ、医療区画のナースって病院の方のナースと制服違うんだよ。病院の方のナースは普通の白いヤツ。医療区画はピンク色でミニスカのナース服。Vの字に開いた胸元の左側にコンバットナイフ。右脚のガーターベルトにハンドガン。徐惨院では医療従事者も護身用の武器を持ってる。ここに来るといつも思うんだけど、なんでこんなにエロいナース服なのかな?エロくする意味ある? 「失礼しまーす」 負傷した除惨士用の病室で、愛華さんとこの間の一刀流の子が会話してた。公園のトイレで戦った子ね。 「あら、愛華」 ベッドに座る愛華さんと、ベッドで上体をおこすホワイトバレイヤージュの髪の子。枕元に制服と刀。 「この子は伊藤胡桃ちゃん」 ベッド脇の椅子に腰掛けた。ぺこりと頭を下げた胡桃は、この間とは別人みたいなに優しそうな顔。当然ノーメイクなんだけど、近くで見ると目が少し垂れててカワイイ。 「愛華さん、この間はお腹の機械を壊してもってありがとうございました。わたし突然襲い掛かっちゃって…」 「いや、いいんだよ別に。一刀流の技を楽しませて貰ったよ」 「愛華、アタシは病院の方に戻らなきゃいけないから。いつもみたいに案内係頼むわね」 おっきいお尻プリプリさせながら香織さんが病室を出て行く。 「具合はいいみたいだね」 「はい、ここで治療してもらいましたからすっかり元気です」 「うん、なら良かった。ねぇこの刀、結構いいものだよね」 「はい、これは童子切安綱(どうじぎりやすつな)です」 ヤバ!名刀キター。 「やっぱそこら辺の刀じゃなかったんだね。見てるだけでもすごい威圧感。」 きっと何度も修羅場を潜ってきたんだろうね。置いてあるだけだけどビシビシ闘志を感じる。もわもわって湯気が出てるみたいな感じ、わかる?とにかく迫力があり過ぎる刀。 「わたしの家に伝わる刀です」 胡桃はよその都市出身で身寄りのないJK剣豪。アタシと一緒。施設で育ったんだけど、そこでの酷いイジメと虐待に嫌気がさして飛び出したらしい。 「で、その後は?」 「付き合っていた彼氏の家へ居候しました」 あ…。彼氏。ふ、ふーん。その時のアタシ多分相当ぎこちないリアクションしてたと思う。 「でも、そのオトコが半グレだったんです」 そのオトコは胡桃が剣豪である事を知ると組織の代表にそれを報告。その後、組織が管理する施設の警備や幹部の護衛を担当する”用心棒“になった。 「その半グレ集団って名前は?」 「”DH“(ディーエイチ)です。」 「DH?」 「ダークネスヘブンの略です」 かなり大きな組織で、暴走族上がりとか格闘家崩れとかで構成された犯罪組織。元々あった巨大な組織が分裂してできた内の一つらしい。イヤイヤながらもなんとか毎日暮らしてたある日。 「わたしと同じような境遇の子がいて、初めて会った時から仲良くしてたんです」 ”林崎英美里“。居合い抜きを主な戦法とする”夢想流“の達人。アタシも名前は聞いた事がある。 「英美里はある日突然、DHが運営する違法な風俗店で働かされることになってしまったんです」 DH幹部への直談判や、己の武勇による解決も考えたみたいなんだけど。 「アンタの一刀流と英美里ちゃんの夢想流があれば無理矢理逃げる事もできたんじゃないの?」 「…わたしのお腹につけられてたあの機械が、拷問や暗殺も兼ねていたんです」 痛覚を刺激して子宮に強烈な痛みを与えたり、胎内を爆破して暗殺したりするものだったんだって。とんでもねぇよな。 「だから警察に密告したんです。でも、警察内部にもDHと通じているヤツがいたみたいで…。後から英美里に聞いたら英美里も警察に密告してたみたいなんです」 酷い拷問を受けた挙句に英美里ちゃんは風俗店へ、胡桃は脳内にマイクロチップを埋め込まれ意識を支配された上で刺客としてアタシの元へ送り込まれた。 「英美里を助けなきゃ…!」 「気持ちはわかるけど今は休んで。英美里ちゃんはアタシたちが助けるよ」 「でも…!」 あのヘンな機械、無理矢理つけられてたから子宮へのダメージが大きいみたい。 「ダメ。今は休んで。まだ完全にお腹が回復してないでしょ?子宮は大切にしなきゃ」 涙目になって不安がる胡桃を説得した。胡桃は完全に回復するのに2〜3日かかりそうだった。しっかり休んでもらわなきゃいけない。そのあともお互いの身の上話を少し話した。物心つく前に両親が死んでるらしい。それもアタシと一緒。可哀想に。それから香織さんと夕飯を外で食べた。香織さんがよく行く焼肉屋さんでね。半グレの話したな。 「DHね」 と、つぶやいてお酒をグビグビ。この人ホント酒強い。お酒飲むと太るって言うけど、香織さん全然スタイルいい。アタシたちみたいにトレーニングするわけでもないのに。 「最近多いですよね、半グレ絡みの案件。アイツら法律の網を巧く潜ってるみたい」 「うん。しかもDHは技術力もある。胡桃ちゃんに取り付けたお腹の機械、それと脳内にマイクロチップを埋める手段…」 「ただの半グレがそんなことできるのかな?」 「できないわね。専門的な知識を持っていないと。それに一番気がかりなのは、キンメリアよ。あれはほぼ開任。どうやって手に入れたのかしら」 芍薬、牡丹、百合…。昔からある女性向けの薬草を徐惨士独自の製法で作ったのが開任。ウチの技術局で作ってる。素材は簡単に手に入れられても製法まではマネできないはずなんだよね。 「まさか誰か…」 「やめてよ、香織さん」 「ええ、わかってる。わかってるんだけどさ…」 でもこの状況、どう考えても“身内”だよね。アタシは身内を疑った挙句、仲間割れなんて絶対イヤ。 イヤだったんだけどねぇ…。
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