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「…喧嘩セックスからの仲直りエッチねぇ。泉、あんた大分旦那の性欲に感化されているわよね?」
「やっぱり、そうなのかな…」
エミの呆れたような声に、項垂れた。
今までの生活と違い過ぎてあまり意識してなかったけど、やっぱりこのままっていうのもどうなんだろう。ウチの親は早くに亡くなっていて私は天涯孤独の身だからいいけれど、由樹の両親にはやっぱり挨拶しないとマズいんじゃないかと思う。いくら訳アリの家庭とは言っても…結婚したとなったら報告ぐらいはしないと大人として問題がある。
こんな当たり前の発想さえしなかったんだから、やっぱり少し浮かれ過ぎていたのかもしれない。
エミがお手洗いに席を立っている間も、私は社員食堂のテーブルに突っ伏してこれからを考えていた。由樹といるとそういった話をする前に甘い空気になってしまうので、せめて一人の時くらいは真面目に考えないと。
考えすぎてプスプスと煙が上がりそうな頭に、こつんと何かが当たった。
頭上を見上げると、藤川君が可笑しそうに口元を抑えながら缶コーヒーを持っている。さっき頭に当たったのはコレらしい。
「アイツのこと考えて悩んでるだろ?」
「ほら」と言って渡されたコーヒーに「ありがとう」と言って手を伸ばした。
プルを開けて一口飲む。私の好きなブラック微糖だった。
本当、藤川君はよく見ててくれてるんだなぁとちょっと申し訳なくなる。
「藤川君は、由樹の事嫌い?」
「…そりゃ、嫌いだね。悉く俺の邪魔ばかりして、最後には葉科まで攫っていったんだから。あいつ、昔からちょっと変な奴だからさ。自分に好きな相手が出来ないなら、俺とか兄貴の恋人と寝れば好きって気持ち分かるんじゃないかとか、変な考え方するんだよ。…アイツも苦労してるのは知ってるから、ずっと好きにさせてたのに。親父に言われて、葉科まで…」
「ち、違うっ!」
藤川君の言葉に慌てて否定した。
「由樹、藤川君の…その、好きな相手って知らないで、こうなったの。私が由樹を拾ったのも本当に偶然だったし…」
「どうだか。口ではどうとでも言えるし、葉科もあんまりあいつの言葉を信じ過ぎるなよ?」
藤川君は由樹の事を疑っているみたいだった。逃げたくなったら協力するって言ったのも、多分勝手にGPS仕込んだりとか、ああいった偏った恋愛観を知っていたのかもしれない。
「まぁ、寝取った相手とすら長続きしなかったのには…それなりに理由があるからさ。
真面目な葉科が、思い悩むくらいなら…今度は俺がアイツから奪い取りたいよ」
とても冗談には見えない表情で藤川君はそれだけ言って、食堂から出て行った。
私はエミが戻って来て肩を揺するまで、複雑な気持ちでその場で固まっていた。
由樹が好きなのに。
由樹に似てる面影と、それとは全然違う男性の顔を持つ藤川君にドキドキしてしまうこの気持ちを、由樹には絶対悟られないようにしないと。
…また襲われたらたまったもんじゃない。
私は内心で溜息を吐いた。
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