05

4/4

124人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
エミと別れてから、スタッフさんと忙しそうに話している由樹に声を掛けるのは気が引けて先にマンションに帰って来た。久々に一人で部屋にいると、少し広く感じてしまって…平たい空間を少しでも埋めようとリビングのカーペットに大の字でゴロンと横になった。 本屋で買った雑誌を開く。特集が組まれていて、対談インタビュー記事が載っていた。誕生日が12月24日(クリスマスイブだった)なことや、血液型がB型なこと、出身は神奈川だということ。知らなかった基本プロフィールをまさか雑誌から知ることになるなんて。 ちょっと目を閉じていると、一息つこうとコーヒー用に温めたケトルの水が沸騰を告げたので、のそのそと動いてコーヒーを淹れる。熱いので一口だけ口に含んで、また大の字になった。 由樹が有名なモデルだった事は本当に驚いた。 今更ながら思えば…確かに身長も180以上ありそうだし、背筋もスタイルも良い。顔だってよくあたしに拾われたなって思うくらいには整っているし、部屋着でいる姿しか見てなかったけど、確かにそれでも様になっていた。 …むしろ何で一般人だと思ってたんだろう。私はうだうだと寝返りを打って、ベッドの足に膝をぶつけて悶絶した。 涙を浮かべながら膝を抱えていると、玄関の鍵が開いた音がした。 続いてリビングの扉が開いて、「ただいまぁ」の声と共に普段のゆるい表情をした由樹が部屋に入って来た。うーん、やっぱり撮影の時とは顔つきが違う。ジッと見つめていると、由樹が寝転がる私に覆い被さってきて頬にキスをした。 「泉、いつの間にか帰っちゃってるんだもん。一緒に帰りたかったのに」 「…有名なモデルさんと一緒にマンション帰ったら、スキャンダルになるでしょ?」 「俺はいつバレてもいいと思ってるけど」 「私は今日、由樹が有名なモデルだって知ったの」 「あー、やっぱり…泉は俺の事知らなかったんだね。何も言わないし、そうなのかなって思ってたけど」 頬だけでなく、額や首筋にもキスを落としていく由樹に、くすぐったくて身をよじった。それでも追いかけてくるようにキスの雨は止まない。思い切って由樹の胸を叩いた。 「…泉? どうしたの?」 「いつもエッチに流れちゃって、私達って会話が少ないと思うの。結婚したんだし、事後報告だけど…由樹のご両親への挨拶だって考えないといけないでしょう?」 私がそう言うと、由樹は首を振った。 「俺は父親に命令こそされてるけど、基本的に縁は切ってるんだ。母親ともね。あの人達は俺が生きてても死んでいても興味はないよ。…会おうなんて考えなくていいから」 そう言った顔は傷付いているような、寂しそうな表情をしていた。 どうすればその心の溝を埋められるのか私には分からない。両親が亡くなったのが20代になったばかりで早かったとはいえ、私は普通の家庭で育って、普通に愛されて育った。どうすれば由樹の寂しさに寄り添えるのか、私には術が無かった。 まだちょっと腫れている頬に右手を添える。痛かったのか、少し眉毛が動いた。 「…叩いちゃってごめんね、仕事にも影響出しちゃって」 「俺がいけないことしたんだから、泉は気にしないでいいんだよ。でも、そうだな…このまま大人しくしててくれるなら、嬉しいんだけど」 私に覆い被さったままの由樹は、片手を服の中に差し入れてきて胸を揉んでいる。ちょっと溜息を吐いて、身体を気持ち浮かせた。由樹はぱぁっと顔を輝かせると左手で一瞬の内にブラのホックを外してみせた。どんだけ慣れてんのよ、と腹が立ちながらも、私も由樹のシャツのボタンを外す。私の服をめくり上げた彼は、服の中に顔を突っ込んで胸にしゃぶりついている。徐々に私の呼吸も上がってきた。 決して嫌な訳じゃないんだけど。勿論、求められるのは嬉しいんだけど。 やっぱり私達はこうなるのね。 諦めて彼の下半身に手をかけて、苦しそうにしている彼の“息子”を解放してあげる。そのまま身体の向きを変えて、反り立ったソレを直視した。 そういえばこんな風にちゃんと見たのは初めてだ。 いつもこんな凶悪なのを身体に収めていたなんて、女体って本当神秘的。 そんな事を思いながら舌をペロリと出して上下反対の位置にいる彼をちらりと見た。私がこんな事をすると思ってなかったのだろう。 可愛いくらい、期待している顔が見えて胸が高鳴った。 あんな大勢の人に囲まれて撮影していて、雑誌で特集を組まれて、パリコレにも出てしまうような人とこんな獣の様な格好で愛し合っている事が、今更ながら信じられなくて…現実だと思い直す為に、一気に口に含んだ。 荒くなる自分じゃない吐息。 私は彼にお願いする為に、一度口から放してまた舌をペロリと出した。 「昨日のエッチで腰痛いから、今日は口だけ、ね?」 その瞬間のぷるぷると涙目で震える由樹の顔は、今までで一番可愛くて好きだと感じた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

124人が本棚に入れています
本棚に追加