06

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昨夜はあの後、ちゃんと由樹と話す事が出来た。 由樹のお母さんはどうやら水商売の方らしく、店で藤川君のお父さんと知り合い深い仲になったらしい。由樹をお腹に宿した時、藤川君は十歳と多感な時期だった。藤川君のお母さんはあまり身体が丈夫な人ではなかったらしく、お兄さんを出産するのも難しいと言われていたらしい。無事にお兄さんが生まれ、もう一人と熱望されて出産した。けれどそれがトドメを刺してしまったらしく、ほとんど出歩けない身体になってしまったということだった。 病弱な妻をいい事に、藤川君のお父さんは由樹と由樹のお母さんを家の離れに呼び寄せ、由樹が三歳の頃には同じ屋根の下で住まわせていたらしい。家には本妻派と愛人派で召使いの派閥争いが酷く、由樹も怪我をしたりと大人の感情に巻き込まれた時期が続いたようだった。 モデルだけど、あまり露出は出来ないんだ。と話した由樹の背には火傷の跡があった。巻き込まれた内の過程に過ぎないらしい。 火傷を誤魔化すように、彼は背中から首筋にかけてタトゥーを施していた。首筋にあるタトゥーは知っていたが、背中に火傷の跡があるのは知らなかったから、私は涙を滲ませてその背を優しく撫でた。 泣かないで、と目元にキスを落とされる。 私は彼の頭を胸に抱き寄せて、ただただ出逢えた運命に感謝をした。 彼がたまに甘えただったり、抱き締められるのが好きなのはただ年下だからではないのかもしれない。私には、母親に上手く甘えられなかった反動に感じた。私の心音を聴きながらあっさり寝付いてしまった由樹の顔を眺めると、胸が苦しいぐらいの愛おしさを感じてしまった。 そんな事を思い出しながら今現在残業をしている。 会社の倉庫で資料を探していると、先客で居た藤川君が目に入った。 彼も私に気付いて、にこっと笑った。 「葉科も来週の会議の資料探しかな?」 「ってことは藤川君もか。来週のプレゼン採用者には手当てが付くらしいからね。負けないからね」 私の言葉に藤川君は楽しそうに笑い、「お手柔らかに」と言った。その横顔をジッと見る。笑い方は似てないのに、不意に由樹と雰囲気が重なる瞬間が藤川君にはあった。その瞬間は目が離せない。 由樹が好きだから?本当にそれだけ? 私は複雑な気持ちになる。 ただ似てるから気になるとか、そんなんじゃない気がするから。 「…葉科、その顔って無意識なワケ?」 さっきまで和やかだった藤川君が急に苛立った声を出した事に私は驚いた。いつも穏やかで落ち着いている彼が怒っている所は見た事がなかったから。 「…その顔って、変な顔してた?」 気に障ったならごめん、そう告げようとした言葉は彼に飲み込まれた。唇を塞がれた事に驚いて非難の声を上げようと口を開いた瞬間、藤川君の舌が口内に侵入してきた。   驚いた私は舌を引っ込めようとしたけど、それより速く彼の舌が動き、私の舌を絡めとる。 藤川君の方へ引っ張られるように、私の舌は水音と共に動いた。 腰はガッチリと抱かれ、身動きひとつ取れそうにない。手で身体を押そうと動かすと、片手であっさり私の両手首は掴まれ、頭上で固定された。 角度を変え、何度も何度も深いキスをされる。 歯列を舐めるように舌を動かされ、上顎を刺激され、下唇を吸われた時にはもう抵抗する気力もなく…腰が抜けてその場に座り込んだ。 離れた藤川君の唇と、私の唇を繋いだ水糸が切れ、彼はそれを舐め取る。 私はダメだと思いつつ、火照る身体と…期待して湿り気を帯びる下半身に脳が麻痺していくようだった。 「…藤川君、やめて…」 「………」 拒否の言葉をまるで聞こえていないように無視され、藤川君の長い指がスカートから濡れた下着の中に入り込み、あっさりと中まで侵入してきた。 あまりに性急に訪れる快感に、思わず口から吐息が漏れる。それが余計に彼を興奮させるようだった。 一度イッても動きは止まらず、苦しいぐらいに何度も何度も指で掻き回されて達した。 意識が朦朧として何の抵抗も出来なくなった時、彼は耳元で囁いた。 「次に俺の前でそんな顔したら、遠慮なく抱くから」 そんな顔ってどんなの? 言葉にならない程荒い呼吸をしている私を尻目に、藤川君は私が作った床の水溜りをハンカチで拭き上げると資料室を静かに出て行った。 悲しいのか、嫌だったのか、自分でもよく分からない感情が喉元まで込み上げて来て…私はその場で蹲って少しだけ泣いてしまった。
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