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03
葉科泉、新婚生活始めました。
…なんて大々的に告知出来る訳も無いので、総務と人事に報告と書類提出を取り急ぎ行い、さて自分の部署の仲間と上司には何て報告すればいいのかと頭を悩ませていた。
酔っぱらった弾みで見ず知らずの男とヤッちゃうのもまぁイタイ行動だったが、まさか婚姻届けに自らサインしてしまうとは想定外だった。
由樹の事は名前ぐらいしか知らない。
けれど週末を一緒に過ごして感じたのは、何年も一緒に居た相手のような安息感だった。こちらが何か言う前に察してくれるし、何か行動する時のタイミングも同じで、同じ空間に居て全く苦にならなかった。
土曜の夜も生地から作ったピザを振舞ってくれたし、日曜は起きたらすでにサンドイッチとオムレツが作ってあって、二人で仲良く食べた。
今度こそ私が食器を洗おうと意気込んで洗い始めると、由樹は洗濯物を回してお風呂を掃除していた。行動に全くそつがなく、こんなに過ごしやすくていいのかと戸惑うような休日を過ごしてしまった。
自分のデスクで呆けていると、隣のエミが肩を突いてきた。
その表情はにやにやと効果音が聞こえるようだった。
「ちょっと…さっき課長達と話しているの偶然聞こえちゃったんだけど。あんた入籍したって本当なの?!」
「会議室で話したのに…どうせ聞き耳立ててたんでしょ」
「まぁまぁ、それは置いといてさ。いつの間に藤川とそんな進展してたのよー!」
「ちゃんと教えなさいよっ」と肩を小突かれると、正面のデスクに座っている藤川君が慌てて「バカ、何言ってんだよ!」と声を挟んだ。
同期のエミと藤川君とはよく三人でご飯に行ったりするけど…藤川君と決してそんな関係じゃない。エミは面白がってよく二人きりにしようとするけど…由樹とこれからちゃんと関係を作っていくなら、エミ達には正直に言った方が良い気がした。
「…えっと、付き合ってそんなに…時間経ってないんだけど、一緒に過ごしていてとても気が合う人だから、急だとは思ったけど入籍だけ先に済ませちゃったの」
説明の9割9分を省いた。3日前に初めて出逢って(拾って)、エッチをして、そのまま酔った勢いで入籍しちゃいました☆ …なんて言える訳がなかった。
「えー…、てっきり何かの間違いかと思ったのに…ホントに泉結婚しちゃったんだ…」
エミはバツが悪そうな顔で私と藤川君を交互に見ている。なんでこんな微妙な空気になるの?
あ、出逢ってすぐ入籍だから引かれたのかな…
「しっかり者の葉科が急に結婚ってのは…正直すごく驚いたけど。…何かあったら、いつでも俺、いや、俺達に相談してくれよな」
「ありがとう、藤川君。持つべきものは助け合える同期だね!」
そう藤川君に笑いかけると、何故かエミに今度は脇腹を小突かれた。
藤川君はちょっと笑って、パソコンへと視線を戻した。
「泉の鈍感さは男泣かせねー…。精々、旦那泣かせるなよ」
呆れたように言うエミを、藤川君は睨み付けていた。
本当、この二人はお互いに遠慮が無くて似合っていると思う。由樹とはちょっと人に言えない形で出会って、ままごとのような結婚になってしまったが、こうなったからには一人の人間としてちゃんと向き合ってみたいと思った。
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