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「いやほんっとにごめん‼︎ 一週間前まではやる気に満ちてたんだよ⁉︎ 」
先程の冷静さはどこへやら。ラピス先生はあわあわと言い訳を始めた。
「でもね、ここ数日諸事情で、徹夜続きだったんだ‼︎ ほら、睡眠時間が足りないと、昼間眠くなるだろ? 眠くなると筆も進まないだろ? だからしっかり睡眠をとって、元気一杯になったら始めようかと……で、気が付いたら今日が来てた」
「どうして徹夜を? 執筆してたんじゃないんですか? 」
「そう思うだろ」
「そう思いたいですよ」
「違うんだなライカ君。実は……」
実はも何もあったもんじゃない。ここ一週間毎日電話してたのに、一切連絡を取らなかった先生が悪い。
最終期限の十二時まで後一時間。それまでに何としても原稿を仕上げてもらわないと、僕の……ライカ・フィクトの人生が終わる。
「まぁまぁ心配しないでくれ。話はもう出来てるんだ」
ラピス先生は苦い笑みを浮かべながら、原稿用紙をひらひらと揺らした。
それならいいですが、と僕は紙の束を受け取る。時間は無いが、一通り目を通しておこう。ラピス先生は作業が遅い分、ミスが全くない。それでも念の為に確認を……
「……あの、文字はどこですか? 」
「この頭の中さ。はは」
「さっさと文字に起こせ‼︎ 」
「分かったよ……」
後一時間で原稿が出来るのだろうか。いつも何だかんだと間に合わせる先生だが、今日に至っては本当にギリギリだ。
仕方ない。まさかこの機においてサボるとも思わないが、どの道後一時間。ここで見張っているとしよう。
「先生は書けば面白いんですから……書かないだけで……」
「嬉しいねぇ。ところでライカ君」
呟きを聞きつけたのか、先生はくっと身を乗り出した。
「何ですか? 」
「ちょっと外に行って貰えるかな」
この機においてサボるのか。
「いや、書いてる所見られるの、恥ずかしくて……」
「……終わるんですね? 」
「勿論さ‼︎ 一時間以内に全部仕上げる‼︎ 」
そこまで言われては仕方ない、か。
僕は「十五分前には戻ります」とだけ伝えると、先生は「帰ってこなくてもいいよ」と返す。僕は丁寧に恨めしい視線を向けてから、先生の家を後にした。
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