【ルー・ガルー】

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 暗い路地に差し掛かった時、突然目の前の道が塞がれた。  どうせガラの悪い輩が、金でもせびりに来たのだろう。この街の裏道ではよくある事。悪いが大して持ち合わせがないから、ここはお引き取り願おうか。 「すみません。この先に用事があって……通して貰っても? 」  目の前の影は返事をしない。黙って低い唸りを上げながら、ゆらりとこちらに近寄るだけだ。  左手に握られているのは巨大な斧。分厚い刃の先端からは、紅の液体がぽつりぽつりと滴り落ち、足元に小さな水溜り(血の海)を作っていた。  しかしそれよりも異質だったのは右腕。針金のような剛毛に覆われた腕の先端からは、黄ばんだ長い爪が生えていた。影はずず、ずず、と爪を引き摺りながら、地面に浅い傷跡を付けて迫って来る……あぁ、こいつが狼人間(ルー・ガルー)か。 「先生の担当になった事が、人生最大の悪運かと思ってたけどさ……」  やがて月光に照らされ、影はその姿を表す。  黒い鬣が頭から背中を覆い尽くし、口からだらりと舌を垂らし。怪物は濁った瞳で僕を見つめ、高々と斧を振り上げた。 「それ以上はもうないよなっ‼︎ 」  十二時まで残り十五分。僕の命はそこまで保つだろうか。
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