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怒り狂った犬のような咆哮。僕はそれを聴きながら、曲がりくねった路地を駆け回る。
怪物は身の丈くらいの斧を持っているのに、身軽に跳ね回りながら追ってくる。僕との距離は確実に縮む。遅かれ早かれ斧の餌食になるか、それとも爪で引き裂かれるか……どちらにしても「死」は免れない。
「……‼︎ そうだ、先生は? 」
先生の家は、怪物がいた路地の先。殆ど壁と同化していて、初見の人ならまず気付かないだろうが……相手は訳の分からない怪物だ。匂いやら音やらを探って、執筆中の先生を見つけてもおかしくない。
グゥゥゥ……ハァァァ……
怪物の吐息が間近に迫る。ついでに原稿の締め切りも迫る。どっちに転んでも、首を切られる事に違いはない。しかし命と立場、どちらを取るかと言われれば、間違いなく命だ。そこは絶対に妥協出来ない。
そうだ、確かこの先には細い通路があったはず。僕一人がやっと入れる幅だから、そこに入れば逃げ切れるかもしれない。
「頼む、間に合え……っ‼︎ 」
しかしその時、怪物の影が頭の上を通り過ぎた。
ひらりと飛び上がった巨体。振り下ろされた斧がアスファルトに突き刺さり、僕の進もうとしていた地面にヒビを入れる。
「あー。考えてる事、分かるんですか? 」
僕の問いへの返答は、ギラリと輝いた刃だった。
道は完全に塞がれた。逆走しても同じ事。追いかけ回され道を塞がれ、やがては首をチョンと切られる。
まさか体と首がさよならする日が来るなんて。信じたくはないが、目の前の現実を受け止めるのが大人だって誰かが言っていた。……誰だっけ?
「あ、先生か」
重い鉄の塊が、首に向けて振り下ろされた。
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