【ルー・ガルー】

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「惜しいな。物語がここで終わっちゃあ」  鉄の匂い。  目を開けた僕は、自分の体が顔の下にあることを確認した。 「君の首が落ちたら気分が悪いからね。ほら」 「……いつも遅いんですよ。先生」  ぽんと渡された原稿用紙の束。僕の隣に立っているのは、黒いスーツを身に纏った先生。 「十二時までは?」 「あと十分です。終わりますか? 」 「楽勝。今日はいい月だからね」  先生は怪物と目を合わせた。片手で抑えていた斧の柄をぐっと握り、真っ二つに折る。幾多の人の血を吸った鉄の塊は力なく落下して、グサリと地面に突き刺さった。 「やっと見つけたよ。人に月の光が取り憑いた怪物、狼人間(ルー・ガルー)。話のネタにはいいけれど、ここは平和な街だからね」  月明かりが路地に差し込み、先生の体を照らしていく。艶のある黒髪は次第に逆立ち、ペンを握っていた手には鋭い爪が生える。青い瞳は月よりも眩い金色に輝き始め、腰からは長い尻尾が現れ、風に揺られてふわりと靡いた。 「怪物なんざ、お話の中だけで十分さ」  黒髪の中から突き出た三角の耳、口の隙間から覗く牙、黒い毛に覆われた手。ふっと笑みを浮かべた先生の姿は、間違いなく狼人間(ルー・ガルー)だった。
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