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斧を失った狼人間は、肥大化した右腕を勢い良く振り下ろす。今まで何人もの血を吸った長い爪が、先生の細い体を貫かんと迫る。
「せっかく月が綺麗だから、君と踊ってあげてもいいんだけどね……」
しかし先生は軽く飛び退いて躱した。貫く対象を失った狼人間はバランスを崩し、不恰好につんのめって倒れる。
「締め切りが近いから急がないと。悪いけど、もう終わらせるよ? 」
先生は腰を落とし、腕をだらりと垂れ下げると、後ろ足に力を込めて一気に飛び出した。
狙うは狼人間の首。鋭い爪の生えた腕を突き刺し、引き裂こうとしたが……
グゥァァァ‼︎
狼人間が咆哮と共に立ち上がり、左腕を伸ばした。
真正面から突っ込んだ先生に避ける術はない。自ら怪物の手の中に突っ込み、そのままあっけなく捕まってしまった。
「困ったなランカ君。助けてくれ」
「無理ですって‼︎ 僕戦闘はからきしなんですから‼︎ 」
さっきまでの強者感は何処へやら。屈強な手の平にちんまり包まれた先生は、ゴキゴキと音を立てながら締め上げられていく。
「おぉ凄いな。君の肩もみの何倍も刺激的だ。あ、肋骨折れた」
「んなもんに勝ちたくないですよ‼︎ それより……」
先生は弱い訳ではないが、決まって一度はピンチになる。曰く「逆境のないヒーローはカッコ悪い」とのことらしいが、自分の命よりもかっこよさを優先するあたり、やっぱりどうかしていると思う。
……まぁ、だから僕がいるのだが。
「先生動かないで‼︎ 当たったら死にますよ‼︎ 」
「物騒だね。好きだよそう言うの‼︎ 」
僕は懐から拳銃を取り出すと、ディグさんから買ったチョコレートを出した。包んでいる銀紙を解き、半分だけ齧ると……中に入っていたのは銀色の弾丸だ。
僕は素早く装填すると、狼人間目掛けて引金を引く。バスンと鈍い音を立てて、銀色に輝く弾丸が飛んだ。弾丸は先生の顔を掠め、そしてそのまま……
グォォォォ‼︎
狼人間の右目に突き刺さった。
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