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「結婚が決まったの」  電話口で、桃の声が踊る。おめでとう、を聞く前に 「今度、(かえで)の家に泊まりに行くからね。独身最後に、姉妹で語り合おうじゃないか。ワイン買ってく!」  双子の妹である桃は就職した会社の二つ上の先輩と婚約した。わたしたちは二十三歳。ちょっと早い気もするが、昔から結婚に憧れのあった桃にしてみれば、順調すぎるほど。さすが桃だ。  最近は大学時代からしていた読者モデルの仕事も少しずつ再開したらしく、一層磨きがかかったように思う。きらきらしすぎて、わたしには眩しい。 「おめでとう。じゃあ週末待ってるね」  電話を切ると夜十一時を回っていた。明日もバイトが五時入りなので、早く寝なくてはと思いながらも、スマホの待受をじっと見て電気も消さずに静止する。初めて野外ライブに出させてもらった時、バンドのメンバーで撮影した写真。もう三年も前になる。  キーボードのわたしと、ボーカルの(とも)、ベースの(ひろ)、ドラムの(まさ)、そしてギターの(たくみ)。 「いつか絶対にメジャーデビューする」  高校一年の時、匠と二人で見た夢の続きをわたしたちは今も追っている。誰よりも早く未来図を描いたはずなのに、抗えず進んでいく人生という時間軸の中で、わたしたちはまだあの頃と同じ場所にいる。
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