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最高シュチュエーション
「最近、キレイになった?」
「ぶっ」
突然美貴にそう言われ、僕は思わず紅茶を吹き出しそうになった。天然ボケなふしのある彼女(付き合って同居してから約半年)ゆえ、斜め上発言が突然飛んでくること事態は珍しくもなんともないが。
それは、土曜日の朝ごはんでサンドイッチを食べている時に唐突に言う台詞なんだろうか。それも、女性から男性に。
「うーんうーん、やっぱり難しいよねえ、この台詞」
固まった僕に気づいたのかそうではないのか、彼女は食卓で腕を組んでうんうん唸っている。突然何、と尋ねれば。ようやく説明が足りていないことに思い立ったのか、実はさ、と話し始める美貴。
「今度の仕事がさー、この台詞を使ったCMの企画を考えろってやつなのよ」
「あー……難しそうだなそれ」
「でしょ?化粧品の会社のCMだからさ、そういう台詞を使いたい意図はわかるの。問題は、どんなシュチュで言わせたら不自然にならないのかって話だよ。なるべく先方は、男性から女性にこの台詞を言わせたいみたいだしさあ」
「なるほど」
少女漫画とか、ティーンズラブ系のドラマとかでならありそうな台詞ではある。きっと乙女な少女達は、こういう台詞を聞いたらきゅんきゅんしてくれることだろう。そう、乙女ゲームとか漫画のような媒体なら、多少非現実的でもなんら問題はない。むしろ現実とかけ離れていても、夢のようなシュチュエーションが望まれることは少なからずあるだろう。
だが。CMとなれば、話は別だ。実写でやる以上、全くリアリティがないとなれば、なかなか共感を得ることは難しいのではないか。それを逆手に取り、いっそ現実要素皆無のブッ飛んだCMを作るケースもありといえばありだろうが。
「今俺も言われて思ったんだけどさ。会話の流れと相手次第ってのは絶対あるよな。俺は今“恋人から言われた”わけで、本来言われて嫌な相手ではないはずなんだけど。唐突だったから、かなり面食らったのは事実だし」
改めて恋人、って口にするのはちょっと気恥ずかしいが。美貴が真剣であるのはよくわかっているので、僕も真面目に考えを伝えることにする。
「会話の流れと相手次第。これは絶対ある。ただ、現実的に考えて、付き合ってもいない男性にこれ言われたらどうなるかってやつだよ。会社で上司に言われてみ。今のご時世、一歩間違えればセクハラになる」
「それそれそれ。でもって、際どいCMなんか出せないんだよ、後でクレーム来ても困るから。今、性差別に少しでも見えそうな内容ってすぐNG食らうから……」
「わかってたけどマジめんどくせーなオイ」
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