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「パーカー? そう言えば貸してたっけ」
「うん、借りっぱなしだったんだよ。ごめんね」
「あー。あれ、あげるよ」
「え?」
意外なことを言われて私が首を傾げると、碧葉くんは悪戯っぽく笑ってこう言う。
「もうすぐ俺が莉依を言いなりにできる期間も終わりじゃん。そのうち俺のこと思い出して寂しくなると思うから、その時着れば?」
「……は、はあ⁉ そんなことないから!」
いつものようにからかわれて、私もいつものように「心外だ」という顔をする。――だけど。
本当にきっと、そうなるだろう。
碧葉くんの近くに居られなくなった私は、彼のことを思い出して、彼の気配のするパーカーに思いを馳せるんだ。
冗談にならない冗談言うな、ばか。
「いや、あるね。いなくなって初めて、俺の大切さに気付くっていうパターンだよ」
ニヤニヤしながら、自信ありげに碧葉くんは言う。
碧葉くんの大切さなんて、もうとっくに私は気づいているというのに。
あーもう!
これだからモテ男は嫌なんだ。
なんとも思っていないくせに、人の心を弄ぶようなことを、自然と言うのだから。
「もう、女の子みんなにそんなこと言ってるんでしょ!」
私はこれ見よがしに頬を膨らませて、精一杯の嫌味を言う。
あまりそんな風にからかわないでよ。
あなたの些細な言動で、私は一喜一憂してしまうのだから。
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