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すると碧葉くんは、ニヤつくのをやめて真剣な面持ちになった。
私を真っ向からじっと見つめてくる。
意外な彼の反応に、私は虚を衝かれる。
そして彼は、静かにこう言った。
「言わないよ」
「えっ?」
「他の女の子に、こんなこと言わない。言ったこともない。これからも、言わない」
言い終わった後、口を引き結んで私を見つめ続ける碧葉くん。
彼は何を言っているのだろう。
他の女の子には、こんなこと言わない?
――私、だけ?
私にだけ、碧葉くんはこんなことを言うの?
それって、どういうこと?
それって、もしかして……。
「選手の皆さんは本部テントの方へ来てくださーい!」
「呼ばれた。行ってくる」
頭の中を整理しているうちに、碧葉くんは運営スタッフに呼ばれて行ってしまった。
彼の言動に、信じられないけれど嬉しい想像が頭を駆け巡る。
だけど恋愛に慣れていない私は、すぐに「違うかも」「やっぱり私がからかいやすいからだ」という考えが沸き起こってしまった。
――ダメだダメだ。
余計なことは考えるな、私。
今は映像を撮ることに集中しなければならない。
私は両手でパンと自分の頬を叩いて、碧葉くんに対する恋心を心の深い場所へと追いやるのだった。
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