最高の一瞬を求めて

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*  前回の大会と、ルールは一緒だった。  選手はボウルの中を四十五秒間滑り、その間に決めたトリックの完成度で得点が決まる。  チャンスは三回だ。  一回目の碧葉くんの滑りでは、高難度の技を次々に決めて、観客達からは大きな歓声が上がった。  前回失敗したマックツイストという大技も、難なく成功させた。  確かにとてもいい滑りだったと思う。  でも、碧葉くんのすごさはこんなものではない、といつも練習を見ている私は思った。  彼がもっと高く、美しく技を決めることなんて、ざらにある。  たぶん、一回目の滑りはノーミスで滑ることを第一に考えて、手堅く行ったんだと思う。  得点的にも、ダイナミックに荒々しく滑った卓斗さんには、一歩及ばなかった。  そして二回目の碧葉くんの滑りは、途中まではとても高く、美しく、私は夢中でビデオカメラを回した。  でも最後の大技を決める瞬間、タイミングが合わずに失敗してしまった。  全選手が三回目の滑りを始める前の時点で、卓斗さんが一位、僅差で碧葉くんが二位。  三位以下を大きく引き離している。  もうこれは、ふたりだけの戦いだ。三回目ですべてが決まるだろう。 「あいつ、大丈夫かなあ」  三回目が始まる前に、私と一緒に観戦していた吐夢くんが不安げにぼやく。 「え……?」
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