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もし、そんなことをする必要がないくらいに彼が闘志を燃やしていたり、精神を集中させていたのなら、話しかけずにおとなしく吐夢くんのところに戻ろう――そんなことを思いながら、碧葉くんを捜していた時だった。
「莉依」
「……げっ」
思わず苦虫を噛み潰したかのような顔をしてしまった。
あからさまな私の拒絶反応を見た彼は、苦笑を浮かべる。
「『げっ』はないだろ。そんなに嫌わなくてもいいじゃねーか」
「べ、別に嫌ってはいません」
碧葉くんを探していたら、あまり会いたくない卓斗さんと鉢合わせてしまったのだ。
いつもぐいぐい迫ってくるからちょっと嫌なんだよなあ……。
と、思っていたら案の定。
「なあ。約束分かってるよな。今日俺が碧葉に勝ったら、俺が莉依をいただくって」
私を面白そうに眺めながら、低く甘い声で言う。
その自信満々の目つきは、きっともう卓斗さんは自分の勝利を確信しているのだろう。
「――いいですよ」
私は不敵な笑みを浮かべて言った。
碧葉くんがよくやる表情の真似をしたつもりだったけれど、うまくできているかな?
すると、卓斗さんは拍子抜けたような顔をした。
「なんだか、やけにあっさりだな。碧葉よりも俺が魅力的って気づいたのか?」
「違いますよ。絶対に叶わない約束なんで、別に何を言われても構わないんです」
「え?」
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