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「そうだよ。卓斗に勝つのは俺だ。俺が絶対に優勝する。莉依がそう言ってくれて、まったく怖くなくなった」
「……怖かったの?」
碧葉くんから初めて聞いた、マイナスの感情。
やっぱり、前回のことを思い出して心に恐れが生まれていたってことなのかな。
「ほんの少しだけね。でも、もう大丈夫。莉依のおかげで」
「――ほんと⁉ よかった!」
碧葉くんの言葉に、とてつもない嬉しさがこみ上げてきた。
初めて本当に彼の役に立てられた気がした。
――大好きな人の役に。
すると、三回目の滑りが始まるから選手は集まってくださいという、アナウンスが場内に流れた。
「碧葉くん」
私が彼に向かって拳を向ける。
そして、こう続けた。
「誰よりも高く飛ぶ碧葉くんを、ちゃんと見てるからね」
碧葉くんはじっと私を見つめたあと、破顔して私と拳を合わせる。
「――ちゃんと見て、焼きつけろよ。その目にも、映像にも」
静かな声音だったけれど、その言葉には底知れない闘志が溢れているのを私は感じ取った。
私はぞくりと身震いをする。
本当に、碧葉くんは、信じられないくらいにかっこいい。
「わかった」
「じゃ、行ってくる」
碧葉くんはすたすたと、選手が集められている本部のテントの方へと歩く。
私はその背中を見守るように眺める。
こんなに自分ではない誰かの勝利を願ったことは、今までにあっただろうか。
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