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――碧葉くん。
頑張って。
*
碧葉くんの3本目の滑り。
ボウルの中に滑り降りてからドロップアウトするまで、約四十五秒。
そう、たったの四十五秒間だ。
四十五秒で、普段の生活の中で一体何が出来るんだろう。
そんな短い時間じゃ、お風呂も入れないしご飯だって食べ終われない。
トイレならもしかしたら済ませられるかな?
いや、手を洗ったりする時間を考えると無理かな。
四十五秒って、それほどまでに短い時間なんだ。
――でも私はそのたった四十五秒に。
これからの人生を、大きく変えられてしまうことになる。
碧葉くんは、最後の滑走者だった。
卓斗さんはすでに滑り終えていて、一度目の得点を上回る素晴らしい滑りを見せた。
卓斗さんが出した得点は、61.8点。
つまり碧葉くんの三回目の滑りがその得点を上回れば優勝だし、下回れば負けだ。
碧葉くんが、ボウルの縁にスケートボードを引っかけて、ドロップインをした。
緊張のあまり私は呼吸が苦しくなったけど、唾を飲んで必死に彼を凝視する。
――何かが、起こる。
確信めいた予感が頭をよぎる。
そこからは、もう本当に息もできないくらいに、私は感動に打ち震えた。
青空の元、次々と高く美しいトリックを決めていく碧葉くん。
それは贔屓目なしで見ても誰よりも高く、きれいだった。
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