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観客は静かになった。
きっと、文字通り空を飛ぶ碧葉くんに、目を心も奪われているのだろう。
――人って、空を飛ぶことができるんだ。
人間の常識を、碧葉くんは軽くぶち壊してくる。
私の中の世界も、大きく変えさせられていく。
もっと。
もっと。
もっと見ていたい。
ただひたすら、重力をものともせずに、縦横無尽に中を舞う彼を、見続けたい。
永遠に残せる映像の中に、美しく収めたい。
ビデオカメラを必死で回し続ける私。
一瞬を駆けるあなたを、決して逃してなるものかと、とにかく必死に。
――そして、彼はあの技に挑む。
最高難度らしい、スケートボードを足に吸い付けたまま空中で一回転する、マックツイスト。
しかし碧葉くんは、太陽の下で、青空を味方につけて、いともたやすくやってのけた。
私の中の鼓動が、爆発しそうなくらいに早くなる。
思わず立ちくらみがする。
――耐えろ。
碧葉くんはすべてを懸けてでやっている。
それを見ないで、撮影しないでどうするんだ。
必死で倒れるのはこらえたけど、体中が熱くなり、少しふらついた。
だってあまりにも。
――縦横無尽に空をかける碧葉くんは、あまりにも。
絶望的なくらいに。恐ろしいくらいに。
――美しかったんだ。
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