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三本目の滑りを終えた碧葉くんを、私はボウルから少し離れた位置から見ていた。
彼はスタッフに促されて、どこかへ行こうとしていた。
私はすぐにはっとして、その場から離れ、碧葉くんのもとへと走る。
飛び上がり、歓声をあげて興奮する観客達を遠く感じながら。
走っている間に、スコアボードに点数が表示されたのが横目で見えた。
『68.7 』
表示された瞬間、どよめきがいっそう大きくなったのがわかった。
だけど私にはそんな点数、分かり切っている結果だった。
卓斗さんなんか目じゃないよ。
見ればわかる。
観客たちの反応も、そう言っている。
あなたの滑りは、異次元だよ。
誰にも負けない、唯一無二だよ。
ただただ彼に伝えたいことがあった私は、必死に走る。
そして、本部テントの裏の方で、ひっそりとしゃがんでいる彼をやっと見つけた。
「莉依? ……っ⁉」
思わず私は、碧葉くんに抱き着いてしまった。
感極まってしまって。
昂ぶった感情がどうしても抑えきれなくて。
するとしばらくしてから、私の頭を碧葉くんはぽんぽんと叩く。
そして私に抱き着かれたまま、こう言った。
「なんで莉依が泣いてんの」
「えっ……」
言われて初めて気づいていた。
私の瞳からはとめどなく涙が溢れていたんだ。
昨日から、碧葉くんには泣かされてばかりだ。
もちろん、どれも嬉し涙だけれど。
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