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「明日美さん、絶対面白がってるでしょ」
「うん。私、他にご飯と金曜テレビシアターぐらいしか楽しみないから」
「それってヤバくないですか? 干物女ってやつですよ」
「そこまでいってないし! せめてしらす干し……ちりめんじゃこくらいにしといて」
「ちりめん女子は認めるんだ」
「まあ、それくらいには……」
乾いてるし。
日常に張りも潤いも無い。
(って言っても、特に不満はないんだけど。むしろ楽)
ちりめん女子の生態は、仕事以外は家にこもりがち。おしゃれや化粧もあまり興味はなく、手を抜きがち。だって頑張っても私なんかたかが知れてるし。
「あれ? 明日美さん、アゴにまたニキビ出来てる」
「んー……? あ、ホントだポコッとしてる。やだなぁ」
「やだなぁって、それだけ?」
クスクスと笑う彼に、私は首を傾げた。
「なによ?」
「いや。明日美さんって、ホントに自分に構わないんだな。男同士で飲んでるみたいです」
「え」
なんだろう、今ちょっと胸の奥がモヤッとした。
「女の子ってニキビとか指摘されると怒ったり、ひどい時は泣いちゃうんですよね。こっちはなんとなく目についたから言っただけなのに」
「へー……」
泣かした事、あるんだ。
「その点、明日美さんはサバサバしてて、一緒にいても肩がこらない」
うん、それはキミにとって私が女じゃないからだね。
「食い物の好みも合うし、最強です」
考えてみたら私、この店に入る前になんとなく口紅だけは塗り直した。そんな奇特な行動の理由はいったい?
「あ、そろそろ雑炊セット頼んどかないと。金曜テレビシアターまでに帰れませんよ」
いつも通り九時までには帰そうとする洸くん。
「う、うん。そうだね……」
ちりめん女子は、自分のほのかな恋心さえ見失いがちだ。
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