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「やっと一息付ける……」
「ふぃ~、目が回った」
月曜日、閉店後の店内。蒼衣と八代はカウンターの中でほう、と息を吐く。
「三日間、朝からほぼ途切れなくお客さまがいらっしゃって」
「いや~、予想を上回るご来店でほくほくだぜ」
売り上げの表示されたタブレット端末を眺める八代は、疲れた表情ながらも、にやけを止められないようだ。
三日間の一周年フェアは、盛況のまま終わりを迎えた。
山に積まれた「金のミニフィナンシェ」は魔法のように消えてなくなり、ショーケースの中は、夕方に慌てて増やした追加のケーキが、それでも一個や二個といった具合で残っているだけだ。
「高校生の子たちは賑やかだったなあ」
「お花屋さんのご夫婦もお元気そうでよかった。シュークリームの常連さんもきてくれたし。あ、おばあちゃんたちも」
「ばーちゃんらはいつも来てるだろ。でもまあ、みんな祝ってくれてうれしかったよな。ほんと、俺たちよくがんばったって」
うれしいことに見知ったお客から「一周年おめでとう」「よくがんばったね」と褒められてしまった。頼りない自分を支えてくれたのは、八代と、自分のお菓子を求めて来てくれたお客のおかげだ。
「ありがとう、お客さまと、八代のおかげだよ。すごく、ほっとした」
「またまたご冗談を。何度でも言ってやるけど、蒼衣のお菓子はおいしいんだからさ。自信持てって」
すると、店の電話が鳴る。閉店後の電話はお客さんではないだろう。僕が出るよ、と蒼衣が電話を取った。
すると、電話の向こうから、懐かしい声が蒼衣の名を呼んだ。
『あ、蒼衣くんだ、ラッキー。一周年、おめでとう』
「師匠!」
蒼衣の魔法菓子師匠である、三蔵広江の声だった。
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