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『携帯にかけたって蒼衣くんは気付かないだろうし、閉店後だけど居るかな~って。せっかくの一周年なのに、行けなくてごめんねえ、こっちが忙しいのと、ちょっと夏の暑さがしんどくて。今日、どうだった?』
「いえいえ、ありがとうございます。覚えていてくださって。ありがたいことに、連日賑わってて、目が回りました」
『そっかそっか……無事に一年お店やれて本当によかったね。でも、油断しちゃだめよ。これからが本番みたいなものなんだから』
「ハ、ハイ……」
静かだが、実感のこもった声に、蒼衣の返事も固くなる。
『あははは、怖がらせちゃった。じゃあ、ついでにもっと怖がらせとこ。今月末、休暇を取るから、名古屋に行こうと思うのよ。そのとき、お店に伺おうかな~って考えてるの』
「ウチにですか?」
『そ。だから、そのときまでに……新しい魔法菓子、一つ考えておいてくれる?』
まるで取り置きのお菓子を一つお願い、といわんばかりの気軽さで言い放たれた。
「――えっ!? あ、新しい、魔法菓子?!」
『師からかわいい弟子への課題よ、課題。そうだなあ、できればエクレアで、蒼衣くんらしい『味』のもの』
楽しみねえ、と声を弾ませる師とは正反対に、まさか独立してからも課題を言いつけられるとは思っていなかった。しかも自分を表現する『味』と言われ、しどろもどろになっていると『あははは、やっぱ困るよねー』と、広江の声に更に楽しげな様子が増した。
『フフフ、あなたの思う、あなたの『味』をエクレアの魔法菓子で表現してみてくれないかなあと思ってね。あ、もう一つ。たぶん蒼衣くんはたくさん試作を作ると思うけど、あなたのお友達――店長さんの意見はなるべく聞かずに決めること』
「てんちょ……えっ!?」
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