petit four1 カメラ越しに移る姿

2/2
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
::: 「ホント、欲にまみれた俺が悪かったわー」  無自覚な素直さは、時にどんな正論よりも効くんだな、と東八代は己の愚かさを反省した。  件の動画はここ最近、ネット上で「美形のパティシエもびっくり! 不思議な魔法菓子の動画!」といったタイトルでまとめ記事が作られ、拡散されはじめているのだった。魔法効果の面白さはさることながら、それを作ったというパティシエ――蒼衣の挙動不審な様子は「面白動画」のカテゴリに入れられている。そして、一部では「イケメンパティシエ」と言われ、アイドル視されているのだった。  天竺蒼衣は、たしかに見目麗しい容姿の男性である。それでいて、柔らかい雰囲気は三十路らしからぬ愛らしさもあるのだろう。ネットの口コミサイトでも、蒼衣のことについて書かれることは珍しくなくなってきた。  SNSのフォロー数も増え、雑誌やWEBメディアの取材打診もある。ありがたいことだと思う一方で、時折心を曇らせるようなこともあるのだった。  カウンターで、SNSの通知を確認する。  すぐに返信出来そうなお客への問い合わせを終え、最後に残った企業からの文面を見た八代は、はあ、とため息をついた。 「……俺が本当に知ってほしいのは、蒼衣の作る魔法菓子だわな」  ぽつりと、自分に言い聞かせるように言葉を落とす。  届いたメッセージには、あの動画をネタにして、魔法菓子ではなく「イケメンパティシエ」の私生活や情報をメインに売りだそうという文句が書かれていた。 「あいつは確かに興味深いけど、そういうことじゃあないんだよな」  先ほど、数字……売り上げと知名度のために、彼を過剰に「消費」しようとした自分を情けなく思う。  本当に蒼衣が輝いているのは、あの手で魔法菓子……小さな幸せを生み出している横顔だ。小窓から見える蒼衣の作業風景を見る。  髪の毛を全てまとめ、帽子の中に入れた姿。ソースを煮込み、粘度や色を確認している眼差しの真剣さは、軽薄な「消費」をしてはいけないものだと思う。  伝えたいのは、彼の腕の良さ、魔法菓子への愛情と真剣さだ。  動画を撮るならば、それが見えてくるようなものでありたい。 「まとめ記事、いい加減削除依頼出すか」  商売になるならなんでも使うのは、うちのやりかたじゃない。  肩をすくめ、八代はスマートフォンの画面をタップした。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!