1 - 第一章・春(1)

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1 - 第一章・春(1)

(僕side) 僕は学校の帰り道に、 信号が変わるのを待っていた 4月になって、温かい陽に祝福されるように 新しい生活が始まっていた 僕たちは高校生になったのだ 信号機がなかなか変わらないので、 公園の方に目を向けてみた 公園ではある少女がしゃがみ込んでいる のが目についた それは<春>の少女だった  ・・・ 興味をそそられた僕は、自転車を降りて 彼女の方に静かに近づいていった 彼女は同じ高校の制服 -白のブラウスと細かいチェックがある 青いスカート- を着て、 公園の片隅でしゃがみ込んでいる なにをしているんだろう…… 彼女は俯きながら白い花を 撫でているのだった 斜め後ろから見ているので、 キャスケットごしの表情までは見えなかった でも、悲しそうにしているのが なんだか伝わってきた…… 憂いをおびている感じになんだか 見とれてしまった どうして? とても綺麗な光景だと思った 僕は、静かに彼女と花のツーショットを ファインダーに捉えた  ・・・ その少女はこちらを振り返った 彼女は写真を撮っているのに 気づいた素振りは見せず、僕の前に立った 並んで立つと、 彼女は少し背が小さいようだった ライトグレーのキャスケットの下には、 茶色を思わせるショートカットの髪と、 小さい目と鼻があった 「ええっと、君は確か同じクラスの……」 なんてことだ、そうだっけという言葉しか出てこない笑 彼女は腕を伸ばして小さな手のひらを僕の前に向けた 「あの、せめて握手しよう?」 僕は彼女の手を軽く握り返す それから、少しはにかんだような表情を して話しかけてくれた 「白いツツジが踏まれて 潰されちゃってたんだ…… わたし、とても可愛そうに思ったの」 ツツジ? サッカーでもしていた少年たちが 誤って踏んでしまったのだろうか でも、彼女が優しい感性を持っていたのが 分かった 花が好きなのかな? そのテレパシーが届いたのかどうか、 花の話を続けてくれた 「花が咲くと、 彩りが増すような感じがして…… 綺麗なんだよ」 君はどう思う? と訊かれたような気がしたので、 わかるよ、と共感をしてみせたんだ すると、やっぱりそうだよねと 頬を喜ばしてくれた 彼女の喜んだ表情は何だかあどけない 中学生のようにも見える 僕は手にしていたカメラを見せながら 会話を引き継いだ 「今の時期は色んな花が咲いてるよね。 写真の題材になると思うんだ」 ……彼女はキョトンとしてしまう あ、さっきの撮影してたことを 気づかれてしまうかなあ汗 「……写真は撮ったことがないなあ」 でも、カラフルになるから 写真の撮りがいがあるかもね、 と話の歩調を合わせてくれる 「わたしは花っていうと、花壇よりも 地面でひっそりと咲くのが好きだなあ。 穏やかながらも、 たくましく生きているんだ」 そう語る彼女に僕は不思議な感覚を覚えた 話していて、何だか楽しかった しばしの会話しかしなかったけれど、 少しながらも弾んでいた あ、と気づいたのはそれからだった なんて呼べばいいのだろうか笑 その気づきで話の腰が折れてしまったのか、 僕たちは自己紹介してお互いに 帰ることにした わたしの名前にも<春>が入っているんだよ、彼女はそう教えてくれた だから、彼女の好きな季節なのだろう なんだか、自転車を漕ぐのがなんだか 気持ち良かった 彼女が花を撫でていた姿が忘れられなかった ずっとカメラの中で保存しておこう  ・・・ (春音side) わたしはクラスメイトと別れてもまだ公園に立っていた ……なんでだろう、 君とすんなり話すことが出来た それは喜ばしい出来事だったんだ 心地よい風がそよ吹いていた
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