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「だから何で私のと一緒に洗ったのよー!!」
絶叫から始まる日曜日。
真っ赤に怒り狂う私とは反対にごめんて! と謝る父親の顔は真っ青。
そして私が父に突きつけたのは、洗濯で真っ白に色落ちしてしまったお気に入りのパンツ。元はワインレッドだったことを忘れてしまうくらい純白。
「もうブリーフじゃん! せっかくデートに備えてたのにぃっ」
「おめーのはマシやろ! 俺のなんか色落ち吸収しちまって真っ赤の赤ふんだぞ!」
誰にデート前に下着が入れ替り漫画みたいな展開がやってきて需要があろうか?
「彼女が真っ白ブリーフはいてきたら彼氏がぶっ倒れるわ!! あーやってられんッ」
「地元弁出とるぞ。彼氏さんも『これがギャップ萌えかー』て人気者なれるで!」
そんな株のあげかた幼稚園児か! てか大暴落だわッ!
……いけない、方言女子なのバレてしまう。愛しの彼は東京のバリバリ都会人。私はただでさえ顔が濃いめの外見で遠巻きにされてきたんだから、これ以上野蛮な喋り方は押さえないと。
父は赤ふんを片手ぶらさげ私に説法。
「自分偽ってるようじゃ長くもたんよ。ありのままのお前が一番。汚ねー言葉、汚ねー化粧、汚ねー振る舞い……おお、三K極めてる」
「愚弄にも程がある」
ブリーフになった元・お気に下着を父の顔面に全力投球し、かわりにちょうど真っ赤に染まった父のパンツを……なんてのは質の最低な冗談で、自分の部屋の一軍をリーサルウェポンとして投入し、いざ戦場へ。……デートだった。
母を早くに亡くした私は一人娘の自分とあの糞オヤジと生活を共におくる所謂父子家庭だ。
仕事と家事どっちもやってくれて、なんも手伝わない私にも文句言わない。飯もうまいし。
だから今日の下着云々で怒らなくても許してやればよかったものの、罪悪感をチャラにするほどの不適切発言だったので、今回は両成敗だろう。アーメン。
「お待たせーっ」
「あ、カナミちゃん。俺も今来たとこだよ」
か~っ。洗練された笑顔まぶしッ。容姿も言動も気品あって爽やかって彼、無敵すぎない?
「服、とても似合ってるよ。可愛いね」
やッふ~っ!!
私のコーデは、ギンガムチェックのワンピースに薄手の白いカーディガンで爽やかさをプラスしてみて正解だったわぁ!
似た系統のファッションでお揃いみたいでいい感じじゃない!?
「カーナミ~!」
嫌な感じがした。
「あれ、カナミちゃん呼ばれてない?」「あんの糞オヤジ……」
追いかけて来やがった。まさか顔面パンツの刑がそこまで恨まれるなんて。……まさか。
言うのか!? 父の顔にパンツぶつける娘がおるかッて!? ウソでしょ!?
ええい! 先手必勝、父が口を開く前にこの場をおさめるぞ!
「お父さんっ、ごめんなさい」
「あぶねーだろンナ靴で歩いたら!!」
「「へ?」」
私と彼の初めての共同作業。
父はお構いなしにウェストポーチ(もちろん腰に装着)から私が普段はいてるスニーカーを出した。うえ汚い。
「デートつっても長時間慣れん靴をはくと痛い目あうぞ。俺は覚えてるぞ、前にヒールで靴擦れして泣いて帰ってきたの」
「だからってなんでデート場所まで来るん!? 恥ずかしいわ!」
うわーん。
思わず泣き出してしまう。ところが、
「ありがとうございます、お父さん」
なんと彼は父に殊勝に頭を下げた。「僕も娘さんに配慮出来ずすみませんでした」そして謝罪。
「なぜ君に礼を言われなければならん?」
まったくその通り。なにが一体起きてるの?
「娘さん……カナミさんは本当はとても溌剌としたパワフルな女性って知ってたんです。でも、僕と話すときはいつも遠慮がちで……」
どうしたらありのままの彼女を引き出せるか悩んでたんです。彼は、はにかんだ笑みで私を見つめた。「明るい彼女の笑顔が好きなので」
知らなかった……。
彼に釣り合うように、そう考えて合わせ続けた結果、彼が求めた本来の私を薄めていってしまっていた……。
「ありのままが一番って言ったろ?」
これだから恋愛は面白いねー、と彼氏に腕を回す馴れ馴れしい父。さっそく中身も男前な彼を気に入ったようだ。彼も戸惑いながらあわあわしている。眼福。好きって言ってもらえたし、我が人生に悔いなし。
……なーんて、いい話で終わらないよね。
「娘のデートやぞ! 空気読め糞オヤジ!!」
大きく回した脚の先に覗くのは、
「カナミちゃん。やっぱもう少し慎もうか」
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