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誠司がビーズをクリーナーで回収し終える頃には、藤乃は完全に立ち上がり、米を研ぎ始めていた。
「焼き鳥丼でいい?」
「うん」
焼き鳥丼の焼き鳥は冷凍だ。それに生卵とノリとネギをかけるだけの簡単な料理。
米を研げば、しばらくやることはない。
「ありがと」
藤乃は誠司からハンディクリーナーを受け取り、ダストカップのビーズを取り出すと、ビーズの箱に放り投げた。
誠司が家に居る間はハンドメイドをしない。それも同居するようになってからの約束だった。
藤乃が物を投げたり、ビーズをひっくり返したりする音が誠司にはどうにも落ち着かなかった。
自分への感情は一ミリも入っていない。
それが分かっていながら、誠司は物が散らばる音に怯えた。
「テレビ付けていい?」
「ああ」
藤乃がテレビを付ける。
毒にも薬にもならないような動物が可愛いだけの番組が流れ出す。
誠司と藤乃はソファに座り、見るともなしにそれを見ていた。
気付けば誠司は寝落ちをしていたようで、その体には藤乃の膝掛けが乱雑にかけられていた。
「ご飯、できてる」
ダイニングで先に焼き鳥丼をかっ込みながら、藤乃が声をかけてくる。
「……うん」
起き上がる、手を洗う、席に着く。
「いただきます」
焼き鳥丼の上に散らばるノリやネギに少しビーズを思い出してしまい誠司は苦笑をこらえた。ノイローゼなのかもしれない。
かき玉スープを一口含んでから、問いかけた。
「首尾は?」
「納品する分はできた」
「そっか」
結婚を前提に始めた同居。
しかし誠司の心には迷いが生じていた。
自分はこの女と付き合っていけるのだろうか? この女をいつまで支えていけるのだろうか? 自分に限界が来てしまうのではないか?
そう思いながら無言のまま、夕食を終えた。
藤乃は食べるのが遅く、誠司は食べるのが速かった。
ほぼ同時に食べ終わり、皿の片付けは誠司が請け負った。
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