星の海

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 藤乃が完成品を眺め出す。  皿を洗いながら、誠司の体に緊張が走る。  一度は満足した出来でも、藤乃はそれを放り投げることがある。  どこかにほころびを見つけて、気に食わないところを見つけて、一通り暴れ出すことがあるのだ。  幸い、藤乃はそうしなかった。  納品用の箱に入れて、ぼんやりと宙を見始めた。  誠司は皿を洗い終え、藤乃に声をかけに行く。 「藤乃、風呂入る?」 「これ、見て」  珍しい。藤乃が自分の作品を誠司に見せたがるのは珍しかった。  どんな心変わりだろうと思いながら、藤乃の手元を見る。  ビーズ刺繍。ビーズをフェルトに縫い止めて、ブローチなどを作るそれは、藤乃がよく作る商品だった。  犬とか猫とか分かりやすいモチーフを作ることが多いが、今回のモチーフがなんなのか誠司には分からなかった。  暗いフェルトに色とりどりのビーズが散りばめられている。 「満天の星」 「……分からん」  素直に答えた。 「だろうね」  藤乃は特に気にした様子もなく笑みをこぼした。 「お風呂、入れてくる」  藤乃がビーズ刺繍を誠司に持たせたまま、立ち上がった。  困ってビーズ刺繍を見つめる。言われてみてもそれがなんなのか、誠司にはやっぱり分からなかった。  順に風呂に入って、のんびりとした時間を過ごし、寝室に一緒に入った。 「おやすみ」 「ああ、おやすみ」  ライトは豆電球。誠司は真っ暗にするのが好みだったが、藤乃が真っ暗は嫌だというので、折衷案で豆電球になった。  聞けばひとり暮らしのときは蛍光灯のついた状態で彼女は眠っていたらしい。  健康に悪そうだと誠司は思った。  その日は夜中に、誠司は起きてしまった。喉が渇いていた。  水を飲みに、キッチンへ向かう。わざわざ電気を付けずとも、水くらいなら飲める。  暗闇の中で水を飲んでいると、リビングのカーテンが中途半端に開いていることに気付いた。  閉めるために窓際に向かえば、カーテンの隙間から星空が見えた。 「……満天の星」  にはほど遠かった。都会の空は星なんて見えないくらいが普通だ。  さすがに光が強い星は見えたけど、その星がどれがどれかなんて、誠司には分からない。  藤乃が作ったビーズ刺繍を思い出す。  あれはどういう意図なのだろう。  店先に並べるつもりなら、女子ならあれを見れば星だと分かるのだろうか?  部屋から見える星はか細く、とてもではないが存在感がなかった。床に散らばるビーズの海の方がよほど、星らしかった。
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