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星の海
星屑のようにきらめき散らばるビーズの海の中で、誠司はぼんやりと床を眺めていた。
ビーズの海の向こうには藤乃がいる。
床に転がっている。ビーズの海に背を向けている。
文句の一つでもこぼそうと思って、口を開きかけ、誠司は彼女の寝息に気付いた。
ため息を一つ、小さく漏らして、誠司はハンディクリーナーを取りにリビングから退出した。
クリーナーのダストカップがキレイに空っぽになっていることを確認する。クリーナーを床にかけているとその騒音で、藤乃が目を覚ました。
緩慢に上体を起こし、振り返る。
「……お帰り」
「ただいま」
それ以上もそれ以下もない会話。
誠司はため息が漏れそうになるのを何とかこらえた。
誠司と藤乃が同居するようになってもう二年が経つ。
知人の紹介。なんともベタなきっかけで出会った二人は一年間の交際を経て、同居を始めた。
誠司は普通のサラリーマン。
藤乃はハンドメイドアクセサリーを売る店のショップ店員だった。
藤乃の店は基本的にはハンドメイド作家から商品を委託されて売っている。
しかし、その搬入は滞ることもある。商品がろくに店頭に並ばないという自体は避けたい。だから店員の藤乃は自らこうしてハンドメイドアクセを作ることがある。
しかし帰ってくる度にこの惨状。正直勘弁して欲しかった。
藤乃はどうにも芸術家気質なところがある。作品が気に入らない出来だとそれを放り投げるし、酷いときにはこうして、ビーズの海を床に作る。
そしてそのまま不貞寝してしまう。
せめて自室でもあれば、誠司の目につくことはない。しかし残念ながらふたりの住居は1LDKだ。この部屋を除けば、寝室しかない。
寝室にビーズの海を作られるのとリビングに作られるの、どちらかマシか考えて、誠司はリビングだと判断した。
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