六月二十七日、日曜日、梅雨の合間の暑い日

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 ……待て待て待て。  なんだ、どういうことだ!? 「あ、今のって……」  そんな俺の声もむなしく空回りし、娘は「もーなんでそんな早いの!」なんてひとり言を呟いてから、また階段を駆け上って自室に戻ってしまった。  ……ちょっと待て!  そう思ったその瞬間、俺は、反射的に玄関の方へと向かっていた。  光の速さで玄関の鍵を回し、扉をがちゃりと開ける。  するとそこには……、諦めてどこかに行こうとする、娘と同い年ぐらいの男の子の、後姿があった。  振り返った彼の目が、大きく開かれる。  そして体をくるりとこちらに向け、口を開いた。 「あっ!あのっ、ぼくはっ……」 「わー!!ストップ!!そういうのいいから!!」  やめてくれ。よしてくれ。俺はまだ、その準備はできていないんだ。  『ぼくは娘さんとお付き合いさせてもらっております、佐藤太郎です』。  そんなこと言われてごらんよ。俺は死ぬ。  ……いや、実際死なないけど、ひざから崩れ落ちるくらいの自信はある。  俺にストップと言われた少年は、眉をハの字にして明らかに困り顔だ。  ちくしょう、どうしてくれようか。  男親なら誰だって、娘が彼氏を連れてきたときのことをシミュレーションしておくだろう?  俺の想像の中では、とりあえず目があったその瞬間一発かましておいて、本当に娘を幸せにしてくれそうか一昼夜こんこんと問い詰め、時には怒鳴り散らして、それから、それから……。 「……なんか、うちの子がごめんね。  よかったら、中で待ちなよ。今日は暑いからさ」  ――あぁ、神様。俺はチキンでした。
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