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六月二十七日、日曜日、梅雨の合間の暑い日
あぁ、神様。
この試練は俺にとって、いくらなんでも早すぎやしませんか。
日曜の朝、九時半過ぎ。ダイニングで食後のコーヒーを飲みながら、俺はほっと一息ついていた。
妻は朝から、パートにでかけてしまった。
つまりこれから数時間、俺は子どもたちを適当にあしらいながら、ゆったりと自分の時間を過ごせばいいだけだ。あぁ、ゆっくり飲むコーヒーは美味しいな。
おだやかな気持ちになっていた俺の横を、まだパジャマの娘がばたばたと駆け抜けていく。
「や、やばいやばい、遅刻遅刻……」
ぶつぶつそんなことを呟いている。
「どこか、行くのか?」
そう俺が聞くと、娘は階段の方に走り去りながら、「うん、ちょっと図書館―」と叫んだ。
ふうん……友だちと勉強でもするんだろ。それにしても、中学二年生にもなるのに、相変わらず時間ギリギリの癖は治らない子だな。
一方、三歳下の息子の方は、のんびりとテレビゲームを楽しんでいる。彼は彼で、マイペースに育てすぎたなとちょっと思ってはいるけれど……、まぁ、いっか。元気にさえ育ってくれれば。
そんな風に思っていると、インターホンが鳴った。
こんな朝から誰だろう。町内会の集金かなにかかな。
そう思いながら俺が出ようとすると、またばたばたと、娘が階段を駆け下りてきた。
「あっ!待って待って!わたし、出るっ!」
あ、お友だちか。俺は「はいはい」なんて言いながら、ダイニングテーブルに戻ろうとした。そのときだった。
「ちょ、ちょっと待って!ていうか、早くない!?」
『あ……ごめん。じゃあ、そこの公園で待ってるから気にしないで』
……お……?
つい聞こえてしまったインターホン越しの声。
……女の子にしては低くないか……?
おれはとっさにふりかえる。画面は、娘の頭で見えない。でも会話だけは、かろうじて聞こえた。
「十時!十時ぴったりには出ていくから!ちょっと待って!じゃあね!」
『わかった。ゆっくりでいいよ』
そんな会話をして、娘はインターホンの通話を切った。
一瞬だけ見えた画面、そこには……一人の、少年が映っていた。
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