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海兵隊員のエバンス・リテールはキャンプ・レモニアの酒場で耳を疑った。
「女は二本の脚の間に悪いものをつけて生まれてきたと信じられている」
今朝、海賊をやっつけてきたばかりの同僚がソマリア人女性の受難を激白した。
「そんなことをしたら、子供が産まれなくなってしまうだろう?」
「ああ、エブ。その通りだが、イシスの奴らはこれっぽちも気にしちゃいない」
「お前はどうなんだ。こんな話を俺に振るからには思惑があるんだろ?」
マッキンタイア軍曹はふふっと黒人らしく歯を輝かせた。
「相変わらず女の勘が鋭いな」
思わずエバンスは拳を固めたが任期満了が近づいてるため思いとどまった。
「男を証明してみせろと岳父に煽られて志願したんだ。それでミネソタの出版社を継ぐ資格が出来る」
「おめでたい話に水を差すつもりはないが、ジェイコブ隊長がお前を残念がってる」
マッキンタイアはバーカウンターから新しいグラスを運んだ。
「バグダディーブラッドで買収しようたって無駄だ。ソマリアの女には悪いが、軍曹。あんただけで部隊は回るだろ」
エバンスが親友のおごりを払いのけようとした。
すると、相手は顔を曇らせた。「ルコックがやられたんだ…」
効果覿面、みるみる青筋が立っていく。
「なぜ、それを早く言わない!」
計算通り、エバンスは声を荒げた。地球の裏側にいる婚約者に内緒とはいえ、枕を並べた関係だ。その最愛の人がイシスに殺された。
「ソコトラ島沖で北朝鮮の背取りを支援する船団がいる。アル・アックワームの浅瀬まで追い詰めたんだが、奴らは携行対艦弾を使いやがった。それでルコックの小隊が沈められた」
「…それで。海賊どもはどうなった?」
エバンスがぎりぎりと歯噛みする。
「ハープーンをしこたま食らって藻屑と消えたよ。CV-93の連中が仕留めてくれた」
「艦載機か…」
エバンスは生ぬるい空調を貫いて想像の翼を成層圏に広げた。しかし、脳裏の地球儀を転がしたところで現実に舞い戻る。ミネソタには新居と転職先が待っている。岳父の興した会社は片田舎のローカル新聞社だったが発行部数減を見越して電子書籍に軸足を移した。ライバル社がバタバタ廃業する前にSF作家の卵を専門のブートキャンプを催すことで育成し、新進気鋭で収益の柱を固めた。お世話になった軍曹の誘いとソマリア人女性たちには申し訳ないが、ペンは剣よりも強し、だ。
彼はジブチ市のレモニア基地からギャラクシー輸送機でカルフォルニアへ飛び立った。
「君は自分にうそをついたね? その結果がこのザマだ」
説教されて金髪の女がかぶりを振った。
「わたしはルコックを【男性】として愛してたのよ!」
すると不明瞭な影が身体をゆすった。
「うわーっはっは。君は超人をみくびりすぎだ」
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