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異星界転生
片田舎に待望のマイホームを買ったエバンスとマーサ。
二人が夢見た甘い新婚生活は前庭に落下した隕石によって砕かれた。想像を絶する衝撃に謎のバイアスがかかって、彼らは余剰次元の彼方へ飛ばされた。
そこは奇想と天外が当たり前のように共存する世界。木っ端みじんの住宅ローン残高を心配するマーサをさらなる不幸が襲う。
夫がいなくなってしまったのだ。
いや、正確には生存している。目の前にエバンスがいる。まるで別人のように変わってしまったが、夫婦の秘密を認証する人物は正真正銘の夫だ。
依然と少しちがっている点は、名前と性別。そして、なぜか裸にマントを羽織っているのだ。
「エバンス? あなた本当にエバンスなの?」
自分よりグラマーな体形に嫉妬しつつマーサは疑った。
「ごめん。エバになっちゃったの」
おお、神よ。ジブチ帰りの海兵隊員からY染色体を奪ってしまうとは何事か。残念ながら夫が妻に変わった時点で百年の恋は自然消滅した。
マーサはさっさと惑星ヒューゴの社会環境に順応した。階級として凡人と超人がおり、彼女は後者に属する。
超人の具体例として空を飛んだり巴投げされて高層ビルを巻き添えにしたりは標準装備。オプションとして眼光透視したり、怪力を発揮したりは普通。
個性として千差万別な特技を授かる。
しかし超人力と言ってもつねにフルパワーを発揮すれば社会は混乱する。自然の摂理は能力に成長の概念を導入した。段階的に活躍の幅が広がる。
超人バンクに登録された当初はアイデア家電より少しだけ便利に身体を使う程度だ。
マーサはゴンドラに揺られてヒューゴ・シティの摩天楼を見下ろす。たたずまいや衣食住は90年代の地球とあまり変わらない。
ただ、日常に超人が生活しているだけだ。
うんっと力むと右手がぼんやり発光する。それをビルの窓にかざして汚れを蒸発させる。縦2メートル横3メートルの強化テクタイト1枚を裏表までピカピカに仕上げて15ヘクター程度。食パン一斤しか買えない。
エバは今どこで何をしているのか。
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