Aさんの場合

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Aさんの場合

『子供は女の子と男の子、1人ずつ欲しいよね』とか 『お父さんとお母さん、びっくりするだろうね。だけど、帰省する時は楽で良いね!どっちにも帰れるw』とか送られてくる明るいメッセージは、俺の目から次々涙を絞り取っていく。  棒になった足をそれでも前に踏み出し続けながら、こんな事なら車の免許をとっておけば良かった、と思った。 しかしそもそもこうなると分かっていたならば、もっと早く自分の気持ちに正直になっていたのだ。  それに、道路はもはや事故車だらけで荒廃していた。 天気も不穏で、雨が降ったりやんだりを繰り返している。  誰もいないドラッグストアに入る。 鍵は空いていたのでフリーザーバッグと飲み物と固形のバランス補助食を失敬してドラッグストアを後にした。  雨の中濡れるスマホと、繋げてあるモバイルバッテリーをフリーザーバッグで保護して、とりあえず腹を満たす。  そしてとにかく歩く。 一度止まると、どっと疲れを感じてもう歩きたくないと体が訴えてくる。  だけど少しでも早く歩かないと、会えない。 俺は道半ばで死にたくない。 せめて、せめて彼女に会ってからじゃないと。  文字だけのやりとりだったら、家でも出来た。 それでも家の外に出たのは、何のためだ。 俺は後悔して死にたくない。 必死に足を進めた。
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