Aさんの場合

1/1
前へ
/16ページ
次へ

Aさんの場合

 仕事に行こうとして、 あ、もう行く必要無いか、と支度を辞めた。  テレビでは使命に燃える報道番組のスタッフももういなくなったらしく、嵐砂が流れていた。 俺はテレビを消した。  そしてネットの世界の人達のもとへとスマホのディスプレイ越しに向かった。 信じているやつと信じていないやつとで論争になっていた。 そして外の治安が恐ろしく悪くなっているという話題を目にした。 『今外に出るのは自殺行為』と書かれていた。  その人は目の前で知らない人が刺されるのを見て慌てて走って逃げ帰ったのだと言う。 通報をしたけど、呼び出し音が鳴るばかりで110番も119番も機能していないのだとか。  また別の人は「最後まで職務を成し遂げたい」と交番で勤務をしていた男性が刺されたと報告してきた。 その人は自分の同僚で、すなわち自分も警察官だが、「刺されて死にたくはない」と言っていた。  どう死のうが一緒だと言うやつもいた。 『どうせみんな死ぬんだから』  そう書かれていたその言葉からなぜか目が離せない。 『どうせみんな死ぬんだから』  だから、俺はどうしよう?
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加