Aさんの場合

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Aさんの場合

 外はもう暗くて、自分には時間がないと焦った。 明日の夜にはみんな死ぬ。  そんな中で冷静な判断なんて無理だよなと思った。 外では悲鳴が聞こえる。 怖くて出られない。 少なくとも誰かが俺を殺したい程の恨みを持っていなくて良かったと思った。 最後に殺してやる、は一体世界で何件起きているんだろう。  なんとなく、自分の下半身を見た。 世界ではどれだけのカップルが、最後の夜を過ごしているんだろうと思った。 虚しくなった。 最後に一緒に過ごす彼女もいないなんて、俺の人生そんなもんか。  なんにも出来ずにとりあえずカップラーメンを作って食べた。 買い物などとても行けない。 きっとお金なんて払わずに商品を持っていき放題だろうな、と思って、だけど持っていった所で持っていかれた人も持っていった人も死ぬよな、と思った。 もう物の価値なんて存在しないんだろうな。  お金持ちも貧乏人もみんな死ぬ。 ああ無情だ、と思いながらとりあえず腹を満たした。 味になんて気を向ける隙もなかった。 ただいつの間にかスープまで飲み干していた。 ただの惰性だ。
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