2話『独立国の第一皇子』

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****♡Side・α(クライス) 「ここだな」  クライスは入国管理局で貰ったチケットとメモを片手に、ホテルの前に立っていた。まずは宿泊先の確認をすべきだと思い、やって来たのだが。 ────この国ではαは歓迎されていない。  そんなことは先ほど、身に染みてわかったこと。  だから宿泊先となるα専用のホテルも、質素なものだとばかり思っていた。ところが予想を遥かに上回るほどの作りである。 ────こんなところに本当に無料で泊まれるのか?  αの統治国家でこのレベルのホテルに泊まろうとすれば、一泊素泊まりでも十万近くはするものだ。  βの独立国でαが勝手にホテルを取ることはできない。理由はフェロモン対策のため。βの独立国のほとんどのホテルには、そんな設備はない。  改めて言う必要もないことだが、βにはΩのフェロモンを感じ取ることが出来ないため、不要なものだからだ。  以上の事情から、この国に入国してくるαが滞在するホテルは指定されている。その代わり無料で利用することができるのだ。  行動を制限する以上、不満軽減のためと思われる。  フロントで入管から渡されたチケットを提示すると、係の者がなにやら機械に挿入した。チケットが偽造でないか調べるものらしい。  ものの数秒で確認作業が終わり、部屋のカードキーを渡される。部屋まで案内してくれると言うのを断り、エレベーターに向かう。  初めての利用だということが分かっている為、パンフレットを渡される。設備の全てが無料だというので、エレベーターに乗り込んだクライスはパンフレットを拡げた。 「これはすごいな」  地下にはバーや大浴場、ビリアードやダーツなどの遊技場、最上階にはレストランが入っている。  もちろん飲食も無料ではあるが、パンフレットの下の方には”泥酔されないように”との注意書きがあった。  これはこの国に滞在するαにとって極めて大切なことだ。  我を失うほど酔うということは、理性を失うことに繋がる。そしてラット抑制剤も効き辛くなってしまう。 「興味はあるが、お酒は辞めておこう」  クライスはお酒を嗜むことのできる年齢に達したばかり。  αの中には飲酒の年齢に関しては守らないものは、ほぼ居ないと言っても過言ではなかった。  彼らにとって理性を失うということは、自分の将来を失う可能性もはらんでいる。自分以外は全てライバルである彼らにとって、命とりになりかねない。  クライスもまた、先のことを考えていた。  クライスが会いたいと願う相手に、今回の滞在期間で会えるとは限らない。もし問題を起こし入国禁止にでもなれば、危険を冒してここまで来た意味がなくなってしまう。  入管で上手いこといって彼の住所を入手することはできたが、果たして会ってくれるだろうか。  クライスは一晩かけて策を練ることにしたのだった。
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