2話『独立国の第一皇子』

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****♡Side・Ω(レン) 『僕、ほんとは……』  カイルは今までレンが心に抱えていたものを、優しくそっと暴いた。  その事でレンは、歩み寄る時なのかもしれないと前向きな気持ちになりつつある。  彼は優しい目をして、じっとこちらを見つめていた。  その先の言葉を、じっと待っているのだ。 「カイルに触れるのが怖いんだ」  彼を悲しくさせるのが嫌で、言えなかったことである。 「怖い……?」  彼の表情が変わる、とても不思議そうな表情へと。 「僕は穢れているから。カイルを汚してしまうんじゃないかと、怖くてたまらないんだ」  軽く唇を噛みカイルを見上げると、彼は両手でレンの頬を包んだ。 「穢れているだなんて、どうしてそんなこと思うの?」 「だって……。発情期が来れば、獣のように君を求めてしまうんだよ? 僕にはその時の記憶はないけれど、カイルを苦しめているのは分かっている。自分の意志とは関係なく性を求めるなんて異常だ」 「レン……、それはレンのせいじゃない」  Ωは呪われた性だと思う。  カイルの傍にいて恋人という関係になって、βに産まれたかったとどれほど望んだことか。  もしカイルに対する想いが恋だとするならば、彼を苦しめているだけの自分に彼を好きになる資格はない。βの恋人関係は、自分たちの恋人関係とは明らかに違う。  性交とは互いに想い合い、求めあって成立するものだ。  相手を大切に思うからこそ、簡単に人に見せることのない自分の大切な部分を晒し、受け入れるものなのだ。  少なくともβの彼らは、そうやって生きている。  だが、自分はどうだ?  発情期の耐えがたい性欲に支配され、本能のまま子孫繁栄のためだけに相手を求める。  そこには思いやりも、慈しみも……そうだ、愛なんてない。  記憶すらないのに。  発情期が明けて自分にあるのは、全身の気だるさと後悔だけだ。  カイルはただ求められるままに相手をし、我を取り戻すまで傍にいてくれる。彼から性を搾取しつくし、自己嫌悪だけがレンを包む。 「ねえ、レン」  カイルは何故か、微笑んだ。 「だったら、記憶として残る時間は俺に頂戴よ」  それは、発情期以外の時間をくれという意味。 「レンはΩだから、βのような恋愛はできないと思っているんでしょ?」 「それは……」 「妹はΩ性だったけれど、βと同じように恋をして恋愛をしていたよ」  今も部屋に飾ってある、カイルの妹の写真のことを思い出す。  彼女はきっと、Ωだからと言い訳などしなかったのであろう。  そう感じるほどに、写真の中の彼女は幸せそうな笑顔を浮かべていた。 「俺がレンに教えてあげるよ。Ωだってちゃんと恋愛できること。レンは穢れてなんていない」  カイルの手がレンの髪を撫でる。その手は暖かかった。 「ねえ、俺と恋愛しよう?俺は、レンにもっと触れたい。触れて欲しいよ」 「カイル……」
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