優しい女神と、幸せの贈り物

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優しい女神と、幸せの贈り物

 昔々。あるところに心優しい女神様がおりました。  彼女は世界の人々の“美しさ”を司る神様です。  みんなが幸せに生きていくためには、美しさが不可欠。見た目の美しさ、景色の美しさ、ありとあらゆるものの美しさ――女神は自らの幸せのパワーを分けることによって、様々なものを美しく彩る力を持っていました。  女神様は、その世界に住んでいる人々のことが大好きでした。  困っている人がいればすぐ、その場所に飛んでいって、お願いを叶えてあげます。 『女神様、女神様。私の家がボロボロで汚いので、みんながバカにしていじめてきます。どうしたらいいですか』  小さな女の子が泣いて頼むと、女神様はすぐ彼女の家がある村まで飛んでいきました。  そして、彼女のボロボロのおうちを、魔法で綺麗にしてあげます。  そして、女の子のおうちを馬鹿にしていじめた人達に、優しくこう諭すのです。 『良いですか、村の皆さん。私はとても悲しい。どんな家も、長く住んでいればボロボロになってしまいます。彼女の家がボロボロになってしまったのは、彼女とその家族が何世代もの間、ご先祖が作った家を大切に大切に守っていたからに他なりません。ですから、家がボロボロであることは、みんなで直してあげようと考えることさえあれど、人を馬鹿にするような理由にはけしてなりえないのです。それなのに、家が古いからという理由だけで彼女をいじめる、皆さんの心の醜さが私はとても悲しく思います』  女神様の言葉に、一部の村人達は反省し、一部の村人は反省しませんでした。  反省しなかった村人達は、綺麗になった女の子の村を羨んで、自分達の家や物もきれいにしてほしいと女神様に言います。  しかし、女神様は首を横に振って告げました。 『人を羨み、妬み、自分達と違う存在を妬むその醜い心。それが美しいものになったなら、私は貴方がたの願いを叶えに再び参上しましょう』  女神様が一番大切に思っていること。それは、人の心の美しさ。  人の心だけは、女神がどれほど魔法をかけても、美しく変えることのできないものであると知っていたからです。  たとえ村人達の家や物を美しくしてあげても、彼らが女の子をいじめた気持ちを顧みなければ、彼らの心はいつまでも醜いままになってしまいます。同時に、何度でもその醜い心で、罪もない誰かに石を投げ続けてしまうことでしょう。  出来ることならば、一人でも多くの人に、本当の心の美しさを思い出して欲しい。女神様はいつもそんなふうに考えておりました。 『私の願いは、ひとりでも多くの人々が美しい心を持ち、幸せな世界を作ってくれることなのです』  女神様の言葉に、女神様の旦那である生命を司る神様は言いました。 『お前のその理想は、とても立派なものだ。私も叶ってくれることを願うよ。だがしかし、無理はいけない。何故ならばどれほど美しい心を持っていても、時として人は人を傷つけることを止められない生き物であるのだから……』
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