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取り戻せるなら、もう一度
『近寄んなよ、ブース!』
千波にとって、そんな風に罵倒されるのは日常茶飯事だった。特に、小学生くらいの男の子は良くも悪くも素直で、お世辞を言って取り繕うということができないことが多いものである。相手が、そんな価値があると思っていない存在なら尚更だ。
自分がブスであることを、千波は自分自身でもよく理解していた。太っていることに加えて、体質の問題でどうしてもニキビができやすいのである。しかも、そうやって容姿を男の子達に馬鹿にされ続けたせいで、どんどん暗い性格になり前髪を伸ばして俯くようになったから尚更だ。それがますます皆の不快を煽っていることは知っていたが、それでも千波に堂々と前を向いて歩くなんてことができるはずもなく。
庇ってくれるのはいつだって、幼稚園の頃からの幼馴染であり初恋の相手である――龍弥だけであったのである。
『……どうして、あの子達はそんな風に人の容姿をいじったり、馬鹿にしたりできるのかな。私だって他のいじめられっ子の子だって、自分でなりたくてこういう見た目なわけじゃないのに、酷いよ……』
『千波……』
愚痴を言っている時。龍弥だけが、千波の手を握って頭を撫でてくれるのだ。他の男子達はみんな、“千波菌が感染る!”と言ってちっとも触ろうとはしないのに。
『千波は、自分と同じように虐められてる奴がいたらどうする?』
小学生のある日、龍弥にそんな質問をされた。だから千波には迷わず、“助ける!”と答えたのである。
『私が、その子だったら助けて欲しいもん。大丈夫だよ、って龍弥がしてくれるみたいに言って欲しいもん。だから、助ける。虐められたら辛い気持ち、私はわかってるもん……!』
『だろ。だから、千波は何も気にすることないと俺は思う』
『え?』
『人の見た目はいくらでも誤魔化せるけど、心は誤魔化せないもんだって俺は思うし。千波は心が美人だから、それが一番大事だと俺は思う。だって、自分が辛いからって人に八つ当たりとかしないで、同じように辛い人がいたら助けてあげようって考えられるだろ?俺はそんな千波がいいと思う!』
あの時、にこにこと千波に笑いかけてくれた龍弥。あの笑顔はまさに、千波だけが知る――一生の宝物になった。
『ありがとう……龍弥』
宝物、そのはずだったのだ。
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