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この世界ではクリスマスになると地上に星が生まれる。
「ただのイルミネーションでしょ? 大げさなんだから」
そうかな? 十分大げさなことだと思うよ。
だってさ、暗闇が意味なく光で飾られるんだよ? 画期的だし、驚異的だ。
この世界の人間には随分余裕があるんだなって、思う。
「あなたの世界には余裕がなかったの?」
そうだね、こんな風に夜にどこもかしこも光を灯すような余裕はなかったな。
自分の暮らす範囲をぎりぎり照らして、それも出来るだけ早く消していた。
僕らのように闇のなかで息を潜めて生活する人間にとって、夜の光というのはどんな小さなものでも憧れなんだ。
夜空の月や、光降るような星が、どれだけ慰めになったかわからない。
「そっか。そういう理由ならクリスマスのイルミネーションを大げさに評価しても仕方ないね」
逆にさ、君たちは好きじゃないの?
好きでもないのにこんなに無駄な光を灯しているの?
「えっ? 好きだよ。私だってクリスマスにキラキラ金色に光るイルミネーションにワクワクする気持ちはあるよ。大げさに言わないだけだよ」
そっか、ならよかった。
この世界の人は豊かさに慣れすぎてもう感動しなくなっているのかと思ったよ。
「うーん。そう言われるとちょっと考えちゃうかな。イルミネーションもさ、子どもの頃はすごくはしゃいだ記憶があるけど。今となっては、ああまたこの季節が来たなって思ってチラ見するぐらいだし。夏の花火もわざわざ出かけて見に行ったりしなくなったし、うわぁ、私、感動しなくなっているかも! ヤバい!」
あはは。
別にいつも感動する必要はないさ。
人が感動するのって、求めても届かなかったものが突然目の前に現れた時だろ? そんなに日常化しているなら感動しなくなって当然だ。
「いやいや、感動ってそんな重いもんじゃないでしょ? もっと、うーんと、きれい! とか、かっこいい! とか、かわいい! とかそういう感じ?」
いや、僕に聞かれてもわかんないよ。
逆に僕はそういう感動をしたことないな。
寒気がするほどに美しいものも、人々が歓声を上げて出迎えるようなかっこいい人も、天使のようだと言われるかわいい子も見たけど、感動はなかった。
だって僕には手が届かないものだもの。
遠い世界すぎてどうでもいいやって思ったな。
「えーっ、それ、いいなー、私見てみたいよ。そっか、うん。感動するものって人によって違うんだね。うんうん勉強になったよ」
きれいだな。
僕はずっと空の星を手にしてみたいと思っていたんだ。
この世界では触ることも出来る。
「あ、触っちゃ駄目。お触り禁止! それ飾り付けする人が一生懸命きれいに見えるように配置してるんだから、ズレたら台無しだよ」
あ、ごめん。
そうか、ここでも星に触れることは出来ないんだね。
「あ、そんな顔しないで! ん~。なら、私が自分で買って家にクリスマスイルミネーションの飾り付けをするからさ。それを手伝ってよ!」
え? 個人で星を作れるの?
「うんうん。百均に行けば数百円でなかなかきれいな飾り付けが出来るよ。まぁちょっとこじんまりとしたものだけど。私と君だけの地上の星だよ」
君と僕だけの地上の……星。
「え? なんで泣いてるの? ちょっと大丈夫?」
ありがとう。
「え? へへっ。そんな、お礼を言われるようなことじゃないよ。私こそ君に出会ってからすごく世界が新鮮に見えるようになったし、楽しいから。……私と出会ってくれて、ありがとうね」
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