1.プロローグ

2/3
前へ
/340ページ
次へ
      高校を卒業して 地元の福岡の小さな小さな出版社に就職して    君に再会した時の僕は   みっともないほど取り乱して 「い、い、市村さん?」って       みっともなくどもっていたよね。 そして君は僕を見て    ただクスクスと   ホントに可笑しそうに笑った。 高校3年間、ずっとさえなかった僕が一つだけ自信を持って自慢できること。 それはーーーー   君、市村秋を      出会ったあの秋の日から      今年で12年間ずっと      好きだったこと。      いつの間にか干支も一周したよ。 君はいつだって心に空いた大きな穴を    埋めたくて   華麗に舞う水上の姿の下で    激しくもがいて水を掻いてる      白鳥みたいだった。 そのことに気付いたのは  3年も付き合っていたくせに    君が別れを告げ東京に戻る3日前だった。     福岡の八女(やめ)という片田舎(かたいなか)で生まれ育った。        僕は神尾武臣(かみおたけおみ)。 イケメンでもなく    これと言って特徴などない。   ただ大人しいだけの普通の男の子だった。 僕が中3の秋に君は転校してきて   高2の冬に元々住んでいた東京に戻った。 その3年間ずっと同じクラスで   君はずっとホームルーム委員だった。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加