<第二話・大家>

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<第二話・大家>

55:ミスター名無しさん@振り向いたらヤツがいるらしい。 振り向いて、開けて中を確認すればわかるんじゃない? 「勘弁してくれよ、もう」  俺は疲れて、大きくため息をついた。やはりと言うべきか、これを発言したのは>>46と同じであるようだ。IDが同じということは、経由しているIPアドレスが同じであるということである。このIDというやつは日をまたぐと変わるらしいが、それまでは同じパソコンで打った奴は同じIDが付与され続けることになるのだ。つまり、どうやっても俺に“後ろ”を開けさせたい奴がひとりいるということである。  確かに面白半分の掲示板の住人からすれば、ただ“ドンドンされて怖い”だけでは話の進展がないと思うのが普通だろう。開けた結果俺が怖い思いでもすれば、きっと安全圏で見ているだけの人間は楽しいに違いない。  まあ、気持ちはわかる。自分も逆の立場なら、これ幸いと面白がっていたかもしれないからだ。そして、あまり真剣に取り合って貰えないだろうことを承知の上でスレ立てすることを選んだのは、他ならぬ俺自身である。  大型掲示板“えぶりちゃんねる”の最盛期は十数年前であったと聞いたことがある。今は、書き込む人間も格段に減り、特にオカルト系の掲示板はかなり廃れたという話も知っていた。むしろ俺が書き込もうと思った理由の一つは、だからこそ“反応するのは本当にオカルトが好きな人間だけだろう”と思ったからというのもあるのである。  元よりダメ元だった。残念ながらこちとら友人のいないぼっちな田舎者であるし、コミュニケーション能力だってけして高いものではない。このアパートを借りるのだって、どれだけ勇気と度胸を振り絞った結果であるやら。  とにかくネットやら広告やらを漁りに漁り、やっとこさ借りられる値段のアパートを見つけてこの結果なのである。墓場の隣でもなんでもないのに、月一万円だなんてとんでもない安さなのはわかっていた。それが東京の物価としては明らかに異様であるということも。  今から思えば、大学が始まってしまう時期が迫っているのに引越しの準備が進まず、焦っていたのは事実だ。それでもあの時、シワだらけのおばあちゃん大家さんに、じっとりとした目で言われた忠告を――どうして聞くことができなかったのかと悔やまずにはいられないのである。 『悪いこと言わないわ、やめときなさい』  そうだ、あの時正確には――彼女はなんと言っていたのか。 『あのアパートの、特にあの部屋は呪われてるのよ。同居人は絶対にいなくならない。どんなに望んでも出ていってくれない。開けた人間を、救いだとはけして思わない……そういう奴なの。そうとしか思えない奴がいるの。私が言うのもなんだけど……ね、やめておいた方が、いい』  今思い出して後悔しても、もはやどうにもならない。  最悪ホテルにでも避難するしかないが、今の持ち金では長期間そちらに移ることなどできないだろう。  とにかく嘘でも気休めでもなんでもいいから、あの同居人を追い出すなり、少なくとも大人しくさせる方法が知りたい。もしこの掲示板で情報が得られなかったら、他の場所にも書き込んだり相談したりして情報集めをするつもりでいた。 ――やっぱり、大家さんに連絡しろって意見が多いよな……。  考えている間にも、スレッドの書き込みは増えていっている。  俺は仕方なく、掲示板にこう書き込んだ。 72:ロリ好き@振り向いたらヤツがいるらしい。 わかった、わかったよ。 今ならまだ大家さんに電話通じる時間帯だと思うから、連絡する。 何か教えてくれるかどうかは知らんけど ちょっと落ちるな
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