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「ねえ、マネージャー?」
「はい、なんでしょうか?」
後部座席に座る新木が、顔を横に向け、車窓を流れる道路照明灯を目で追いかけながら、運転をしているマネージャーに話しかけた。
「もう、終わりにしたい。」
「またそれですか。」
マネージャーはため息をついた。
「新木さん。何度も言いますけど、今、あなたにアイドルを辞められるのは困るんですよ。」
マネージャーは運転を止めるわけにはいかなかったので、ルームミラーで新木を見た。新木は顔を窓の外に向けたままだった。
「あなたが今アイドルを辞めると、新木さん自身も生活に困るでしょうし、私も仕事がなくなって困る。事務所も困るし、あなたに関わるスタッフも困る。何より、一番困るのはあなたを応援してくれているファンでしょうね。」
新木は車窓から視線を外し前を向き上半身を起こすと、マネージャーの運転席の背もたれの頭の部分に両手を回し抱きついた。
「もう、嘘はつきたくない。」
「ちょっとしたことじゃないですか。」
新木は頬っぺたを膨らませた。マネージャーは軽く笑った。
「ちょっとしたこと?私、もう還暦よ!JKのアイドルって嘘は無理があるよ!」
「わー!滅多なこと言わない!」
マネージャーは驚いて体をビクッとさせて叫んだ。車がその驚きに反応して、左右にブルっと震えた。
車には新木とマネージャーしか乗っていない。
盗聴器を仕掛ける隙も無く厳重に管理された社用車にも関わらず、マネージャーは新木の発言に慌てた。
ちょっとした気の緩みが命とりになることをマネージャーは恐れていた。
「とにかく、もう嘘はつきたくない。」
「なんですか?最近。」
「罪の重さに耐えられない。」
「罪?おおげさな。」
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