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どうして彼女は綺麗になったのか?
「最近、キレイになった?」ベッドの中で、恋人の誠司が私と裸で抱き合いながらそんなことを言う。「そうなの、肌の悩みが解決されて、美肌になったし、大人ニキビも解消したの。」わたしもそう答えて、誠司の細い首に手を廻した。
「何が原因?何か良いことあったの?」誠司が私の舌に自分の舌を絡ませながら、矢継ぎ早に聞く。私はうまく答えようとするけど、自分の口が誠司の舌で塞がれているから、何もしゃべれない。「ちゃんと教えてよ。」意地悪な誠司は、なおも追及の手を緩めない。でも、今度は軽いフレンチ・キスなので私はちゃんと答えられた。「好きな人ができたの。」
「え?」誠司はびっくりして、私の体から少し離れた。「本当なの?」心なしか誠司の顔は青ざめている。わたしも言った。「だってあなたには奥さんも子供さんもいるじゃない。」「そりゃそうだけど。」誠司はそう言って、納得がいかない顔で私を見つめている。わたしはベッドのそばにあるサイドテ-ブルの灰皿に手を伸ばし、煙草を吸い始めた。「私に独身の恋人ができたら、私たちの関係は終わるっていうのが最初からの二人の約束だったでしょ?」わたしはそう言いながら、誠司ではなく煙草の煙だけを見つめていた。
「君のこのキレイな身体をその新しい男は抱くんだな。そう思うと悔しいよ。」誠司はそう言って少し笑った。笑うと、誠司の顔に少し皺ができて、彼ももう若くないのだということがわかる。
それに比べてこの私は新しい恋人ができて、お肌がツルツルしていて光っている。誠司はもう過去の男だ。
どうやって別れを切り出そうかと思っていたけど、誠司の方からきっかけを作ってくれて本当に良かった。
誠司は私の吸っている煙草を取り、深く吸った。彼の口から出ていく煙草の煙は彼の苦悩と悔恨を表しているかのようだ。
「これで終わりだな。」誠司は言う。「ええ、これで終わりよ。もう二度と会わないわ。」わたしもそう言って、誠司の煙草を取り上げて灰皿で潰した。
誠司は笑って言った。「未練がましいようだけど、最後にキスしてもいいかな?」私も答えた。「ええ、いいわ。」
誠司の口づけをうけながら、私が本当は少し涙を流していたのを彼は最後まで気づかなかった。「これでいいのだ」私はそう思い、誠司より先にホテルを出た。私が本当は誰が一番好きだったかなんて、誰にも知られたくない。情事とはそういうものだからだ。私という20代の小娘は少しだけ大人になったのだ、ただそれだけだ。
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