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宏行はとっさに都会に住んでいた時に何度かプレイしたことのある、サバイバルホラー系のゲームを思い浮かべていた。それは悪霊というより、ゲーム内に登場するモンスターやクリーチャーと呼ばれる敵キャラクターによく似ている。だが画面越しでなく、目と鼻の先に確かに存在するそいつから受けるプレッシャーや恐怖感は、ゲームなどと比にならない。
生臭くて強烈な血の匂いがこちらにまで漂ってきて、宏行は胸が悪くなる思いがした。鼻と口を覆う己の手がカタカタと小刻みに震えていることに気付く。目の前のものがただただ恐ろしかった。
「あ…悪霊って…!」
「嘘じゃない。常世の境界で生まれるのは、現世の人間達の怨念の集合体だ。多くの負の感情がかたちをとって、ああやって怪物になるんだ」
宏行は信じがたかった。あんなものが人間から生まれたものであることも――紫衣があれの目の前に立ち塞がっている現実も。
声も出せず震える宏行の目の前で、怪物はギシャアと耳障りな奇声を上げ――表面がブツブツとした巨大な舌を振り上げると、不気味な四肢を奇妙に這わせ、恐ろしいばかりの勢いで向かってきた。
重量のある巨体に反して、思うよりずっと俊敏な速度で――標的となるのは、眼前に佇む紫衣だ。
「!あぶな――」
「待て、落ち着け」蒼白な顔で思わず声を上げた宏行を、乙哉はぴしゃりと押しとめた。眼帯に覆われていない方の眼で前方を見据えたまま、低い声で言った。
「大丈夫。――多分、大丈夫だ」
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