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 近い席同士を寄せ合った女子生徒数人は、抑えた声で陰湿な笑い声を上げた。人数は4人。その中でひときわ目立つ雰囲気の少女が原田ユカだった。  ユカはグループ内で一番饒舌で頭の回転も早く、良くも悪くも口達者な少女だったが、今朝は微妙に調子に精彩を欠いていた。他の少女と一緒に軽口に笑っては見せるも、いつもよりめっきり口数が少なく表情もどこかぎこちない。さざめく笑い声の隙間でちらりと紫衣の背中に視線を遣ったユカは、零れ落ちたようにぼそりと呟いた。 「――何考えてんのかわかんなくて、不気味なんだよね、アイツ」  独白めいた言葉が思ったよりはっきりと音に乗ったことにユカはハッとしたが、 「だよねっ」 「わかる~」 「ほんとほんと、そうだよね」  他の3人は迎合の笑みを張り付け、口々に賛同してみせた。ユカの微妙な心境の違いには誰も気がつかないようだったが、逆にそのことに――いつも通りの空気感に、ユカはホッとした。調子を取り戻そうとするかのように、続けて口を大きく開けた時。  すぐ近くの扉が、がらりと音を立てて開いた。 「――あ、」  そこには一人の男子生徒が立っていた。 「乙哉くん!」目の早い少女が、先んじて高い声を上げた。  少女達の視線を一気に浚った少年は、双眸のうち右に白い片眼帯を装着していた。異様に大きく目立つのだが、左眼はそれに翳まず瞳の奥に印象的な光を宿している。眉間には本人の機嫌によらない癖付いた一本の皺が刻まれており、それらの特徴が童顔でありながら彼を強面たらしめていた。また体躯が細く、おまけに猫背気味なせいで随分と小柄に見えるのだが、身にまとうオーラのようなものが彼の存在感を圧倒的に高めていた。――くすんだ薄茶色の髪は猫っ毛で、ほんのわずかな動作でその長い毛足を揺らす。人目を引く目立つ少年は名を各務乙哉といった。  少年の登場で一気に華やぐ中、ユカも負けじと甘えた声を出した。 「おはよぉ、乙哉くん」 「……」  片や乙哉は少女達に異様なテンションで突然迎えられたことに面食らったのか、珍獣でも見たような目つきをした。「……オハヨウ」と低く呟くなり、さっさとその場を通り過ぎる。さも義理で返事をしていると言わんばかりのその態度は、礼儀礼節に厳しい彼の兄が見たら苦言を呈すこと請け合いだったが――背後の少女達はそんなことを気にした風もなく、黄色い声できゃあきゃあと姦しく騒ぐのだった。  
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